第10話 取り戻した緋色の記憶

 いきなりの事で俺の思考は停止した。

そして、数秒後、俺達はやっと離れた。


「本当は自分で思い出して欲しかったんですけどね……余りにも焦れったいので……これで思い出しましたか?私達の関係を……」


「あぁ……信じられないが思い出したよ。俺達は恋人だ!!」


さっきのキス……何も覚えてない俺からしたらファーストキスだったのだが……

何回もしていたのだろうか?

いや、そんな事は今は関係ない……


「恋人なんだったらなんで俺は覚えていないんだろう?」


「……それは……」


カンナは言い淀んだ。

それほど言い難い事なのだろうか……


「まぁ良いや、次は何を思い出そうか……って言うかもう思い出す事無くないか?」


「いや、まだありますよ。恐らくこれが1番重要な事で、零夜さんにとって辛い事でしょう。覚悟は良いですか?」


「あぁ、俺はできてる。」


「そうですか、それが聞けて安心です。今からとてもショッキングな物を見せますが何があっても平常心を保って下さい。じゃあ行きますよ!!本当にいいんですね?」


「あぁ。」


俺のその言葉を最後にまた世界が歪んだ。


 今度は花畑とかののどかな場所じゃあなくて、町中の踏み切りの前だった。

ここは、確かカンナが轢かれた場所?

嫌な予感が背筋を伝う。

そんな……まだ夕方も来てなかった筈だ!!

だが、辺りは既に暗くなっていた。

まるで、時間が飛ばされたみたいだった。

丁度、カンナが電車に轢かれる時間ぐらいまで。

急に、目の前にカンナが現れた。

前のループでは俺はカンナが轢かれる所を直接見ていないしカンナについての記憶も無かったから大丈夫だったが、今はカンナが恋人という事を思い出している。

しかも、体がピクリとも動かない。

顔を背ける事ができない。

ついにカンカンカンと踏み切りが鳴り出した。

そして、カンナが止まろうとした所で石につまずく。

その時、丁度電車がやって来た。

グジャァと鈍い音が響く。

視界が赤に染まる。

カンナは跡形もなく消え去ってしまった。


「あ……あぁ……そんな……そうだったのか……」


動けるようになった俺はドスンと膝から崩れ落ちる。

全て、思い出してしまった。

全て、理解した。

なんで俺が恋人の事を忘れていたのか……

カンナには平常心を保つように言われたが一瞬、ほんの一瞬だけ……


「うわあぁあああああああ!!!!!!!!!!!!」


俺は空高く叫んだ。

それはどこまでもどこまでも響き渡るような悲痛な叫びだった。

そして、この世界は終焉を迎えた。

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