第5話 1周目エンディングと2周目の始まり

 魔王城の最奥部での戦い。そこで私が最後に剣を一振りした所で、魔王が倒れ伏す。


 それに合わせて、魔王の魔力で編まれていた魔王城が、サラサラと音をたてて崩れ消えていき、最後に魔王の亡骸だけが残った。


「あれ……!? 倒……せた?」


 万全を尽くした魔王戦は、当然ながら勝利である。万が一魔王に負けたとしても、セーブポイントまで巻き戻るだけだ。これはゲームなのだから。


 地に伏した魔王を確認してカナエが呆然としているのが、不思議だ。逆に何故倒せないと彼女は思ったのだろう。


「君がいたから、魔王を討伐できたんだ。カナエ、本当にありがとう」


 お決まりの文句を告げて、私はカナエの手をとり口づける。


 それを合図に、エンディングのメロディーが流れ始めた。場面が一瞬にしてアーネストの王城に変わり、私の衣装も変わった。

 白の礼服に身を包んだ姿になり、隣には婚礼衣装をまとったカナエがいる。


「カナエ、私は世界で一番の幸せ者だよ」


「アーネスト様……死ぬほどかっこいいです! いや死ななかったんですけど! やったね!」


 ただ決められた台詞を言う私に対して、彼女はどこまでも選択肢にはまらない言葉を吐く。


 広間の扉が開き、ビロードの敷かれたバージンロードをカナエと共に歩く。これで、エンディングは終わりだ。

 ふと横を見やれば、カナエはとても幸せそうに笑っている。


「本当に、倒せて良かった」


「ゲームだから当たり前だろう?」


 しまった、と思ったが口から出た言葉はもう戻らない。彼女は歩みを止めて、ぽかんとした顔で私の顔を仰ぎ見た。


「……そっか」


 小さく呟いてから、カナエは再び歩き始める。


「ゲーム。ゲーム、かあ……それでかあ」


 先ほどはつい口が滑ったが、シナリオに関係のない問いかけには、口をつぐんでおく。そうして、オープニング前に彼女が選んだ通り、『ミヒャエルルート』のハッピーエンドで1周目が終わった。


 カナエと私が微笑みあうシーンで、エンディングは幕を閉じたのだ。だが、これで『ゲーム』は終わりではない。


『好感度の引継ぎができます。2周目を始めますか?』


「はい!」


 元気の良い声が答えて、キュルキュルと世界が巻き戻っていく。再びプロローグの始まりだ。



 王城の広間、魔法陣の上に光を帯びて、カナエは現れる。


「おお、聖女よ、召喚に応じて下さり、感謝します!」


 神官が両手を広げてカナエを迎えた。


「『キャー! ここはどこなの!?』……なーんてね、これで合ってた?」


 笑ってカナエは、私の方を向く。


「ねえ、あなたの名前を教えてください」


「私は、この国の第一王子、ミヒャエル・アーネストと申します。突然このように不躾にお呼びたてした事をお許しください。貴女には、聖女として、この世界を救って頂きたいのです」


「また、始まるね。まっかせてください!」


 彼女は、1周目と同じく、力強く胸を叩いて見せた。

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