第4話 1周目 ルート分岐イベント
1周目、順調にストーリーは進んでいる。明日はとうとう魔王討伐前の決起集会……と言えば聞こえは良いが、エンディングキャラクターを選択するためのただの最終イベントだ。
舞踏会が催されることになっており、ヒロインが選ぶエスコートキャラクターによって、エンディングキャラクターが決定される。好感度によってハッピーエンドやバッドエンドが変わるが、好感度的にハッピーエンドに進めるのは、今のところ私しかいない。
ヒロインには、攻略キャラクター全員から、今日会いたいという旨の手紙を渡している。彼女が選んだキャラクターだけが今日ヒロインに会うことができ、その場で舞踏会のエスコートを申し込むという流れだ。
ちなみに逆ハーレムエンドの場合は、ヒロインは「皆で会いましょう」という旨の返事を出すことになり、舞踏会へも全員で出席することになる。
私はカナエに手紙で伝えた場所へと移動した。
「……アーネスト様」
庭園の東屋へ行くと、既にヒロインが先に来ていた。本来のイベントでは、彼女は後から来る筈だ。
「カナエ、来てくれて嬉しいよ」
私はメインヒーローの台詞をなぞる。すると、いつも明るい顔をしているカナエは、眉をしかめた。
「本当は、来るかどうか迷ったんですけど…。やっぱりアーネスト様が大好きなので」
困ったように笑って、カナエは背中に隠していた花束を差し出した。
「アーネスト様、私と明日の舞踏会に行ってもらえませんか? あ、エスコートして欲しいってことになっちゃうんですけど」
それは私が言うべき台詞である。しかし動じはしない。私たちゲームキャラクターに選択肢がないのは、こういったバグに柔軟に対応するためなのだから。
「もちろん、喜んで。私からも、カナエにお願いがあるんだ」
花束を受取って私が言えば、カナエはきゅっと拳を握った。選択肢が出るならば、「なんですか?」か「何でも言って」と言う筈だが、彼女は何も答えない。
私は花束をテーブルに置いてから、彼女の前に跪いて彼女の手を取る。
「この戦いが終わったら、私と生涯の伴侶になって欲しい」
普段なら、手を取ったところで赤面しながら飛びのく所だが、彼女はそうせず軽く握り返してきた。
「そんなの、死亡フラグじゃん……」
彼女が小さく呟いた言葉を、私は聞き返さない。
「うん……いや、はい。魔王、絶対に倒しましょう!」
力強く言って、彼女は笑った。
「はい」
「アッごごごごめんなさい! アーネスト様、じゃあ、また、また明日!」
不意に正気に戻ったのか、カナエは握っていた手を離し、嵐のごとく走り去ってしまった。本来なら、この後庭園デートのストーリーが入る予定だったのだが。
まあいいだろう。
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