第6話 3周目 ルート分岐イベント

 同じルートを何度か周回するヒロインはいる。だから別に珍しいことではない。そう、3周連続でカナエがルート分岐イベントで、私の待つ東屋に現れたとしても。


 もしカナエに対する好感度が足りなければ、エスコート役を申し出はするが、その後のプロポーズイベントが発生しないようになっている。しかし、好感度は引き継がれているのでそんなことにはなりえない。私のルートをカナエが選ぶ限りは、この先ずっとハッピーエンドしかあり得ないのだ。


 まだカナエは来ていない。だが恐らく来るだろう。というか、来ない方がおかしい。ここまでの道中、全てのイベントでメインパーティーに私を選んでいるので、好感度の引継ぎをされているのにも関わらず、ハッピーエンドに至れる好感度は私だけだ。他のメンバーと言えば、まあ良くてせいぜい友情エンドだろう。


 東屋のテーブルに置いた花束を横目に、私は待機する。


 1周目と2周目は、私が東屋に来る前にカナエがここで待機していたので、現れる筈の彼女を待つのは、少し変な感じだ。これが正しいイベントの流れだと言うのに。


「お待たせしましたぁ~!」


 カナエが走ってきた。しかしその姿が珍妙だ。


 抱えるのが億劫になるほどの大きな花束を抱えている。いや、過去2回も花束を持ってきていたからそれ自体は妙ではないが、服装がおかしい。騎士の礼服を着ているのだ。


「準備、してたら……ちょっと、時間かかっちゃって……すみません!」


 東屋につくなり、息を切らしながら弁明する彼女だが、それよりも服装について教えて欲しい。ストーリーとして流れにないので、彼女の服装につっこみはしないが。


「3回目の決起集会ですね、アーネスト様。これは私の気持ちです。受け取ってください」


 まるで臣下が礼を取るように、彼女は跪いて花束を捧げる。私がそれを受け取ると、そのまま手を取られた。


「アーネスト様。明日、私と一緒に舞踏会に行ってください。そして、魔王を倒した暁には、私のお婿さんになってください」


 私が返事をする前に、カナエは私の手の甲に口づける。これは私がやるべきことなのではないだろうか?


「…………ひゃ~~~もう無理! 恥ずかしい!」


 手を離してカナエは飛びのいた。


「ふぅ~でも一回やってみたかったんだよね。プロポーズ!」


 どうやらプロポーズと言えば、跪いて口づけだと思ったらしい。なるほど確かに、私も過去にそうしている。


「それは私に言わせて欲しかったな」


「へへへ。大好きなら、どっちが言ってもいいでしょう?」


 私の了承の言葉を聞いて、カナエはほっとしたような顔をしてから笑う。


 こうして3周目も、ミヒャエルエンドで終わることになったのだった。

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