第十五話 のぞみ

「なぜ生きたいと思わないんだ」

「だって」と、馬はおそるおそる話し始めました。

「だって、どうしたらいいのかわかりません。自分はずっと人に飼われていたし、突然こんな路上で放り出されても、不安でたまらないのです」

 そこで妖怪はしばらく考えてから、こう言いました。

「野生の馬というのがいる。そいつらのところにおまえを連れていって、群れに入れてくれるよう頼んでやる。群れはおまえを歓迎し、受け入れるとしたら、それでもおまえは殺されてもかまわないと思うのか」

 馬はぽろりと涙をこぼして、

「いいえ、それだったら生きたいと思います」と、言ったそうです。

「では、再度問う。おまえの望みを言え」

「私は、仲間と一緒に生きたいです。仲間を大切にして、自分も大切にされたいです。それが自分の望みだって、今やっとわかりました」

 馬は顔を上げて、光を取り戻した瞳で妖怪にそう宣言したそうです。自分を食うと言っているおそろしい妖怪に向かって、はっきりと希望を伝えることができたのです。

 妖怪は馬の態度に満足して、群れに連れていってやりました。その馬が寿命を迎えたあとで、死体を食ったそうですよ。


 あなた様の望みはなんですか。

 人間は馬のように単純ではないですから、誰かに教えてもらうわけにはいかないでしょう。

 あなた様の幸せを、あなた様の望む未来を、あなた様は自分の魂の中から引っ張り出してこなけりゃいけません。世間や学校、親の考える幸せではなく、あなた様にとっての幸せを見つけるのです。それは一見簡単なように見えて、実はとても骨の折れることです。

 だから元気をつけなくっちゃね。

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