第十四話 悲しかった妖怪

 その馬はひどく痩せていて、たてがみもぼろぼろ。全く手入れをしてもらっていなかったんです。物のように扱われて、すっかり心がへたってしまっていた。そのままにしておくのは可哀想だから、もういっそ自分が食っちまおうと思ったんですって。苦痛を先延ばしするよりも、ひと思いに殺してやろうとしたんですね。いや、それが正解か間違いかなんて、私にはわかりません。人間の倫理でいったら間違いかもしれませんね。でも、その妖怪は、そう決めたわけです。


 妖怪は盗んだ馬を村の外までつれていき、話しかけてみたんですって。

「馬よ、これから私はおまえを食うつもりだ。しかし、このまま死ぬのはあまりに哀れだから、最後になんでも一つだけ望みを叶えてやろう。さあ、望みを言え」

 馬はすっかり怯えてしまって、何も希望を言わなかったそうです。

「おまえが生きたいと言うのなら、その望みだって叶えてやるのだぞ」

 そこまで言っても、馬は俯いたまま。

「なぜ何も言わない。このまま殺されてもいいのか」

 妖怪にそう問われて、馬は小さく頷いたそうです。


 悲しいじゃないですか。あんまりでしょう。だって馬はもう自由だし、どこにでも行けて、やりたいことだって何でもできるのに、逃げもせず、抵抗もせず、じっと殺されるのを待っているんですから。その話を聞いたとき、私は胸の奥がしくしくしましたよ。

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