第十一話 無謀な妖怪

 またもや妖怪仲間の話で恐縮なんですけどね。私の知り合いで、陰陽師おんみょうじに退治されかかったやつがいました。命からがら逃げ出したものの、体が半分消えちゃってるわけ。こりゃ放っておいたら全身消えちまうかもしれないから、霊泉にでも行って療養しなさいよってみんなは言うんだけど、そんなことをしている場合じゃない、戒力かいりきを身につける勉強をするんだって言ってきかないんですよ。


「あいつにゃ妖力ようりきじゃ敵わなかった。あの憎い陰陽師の息の根をとめてやるには戒力かいりきを身につけるしかねえんだ」

「そりゃまあ、理屈はそうかもしれないけど、私たち妖怪は妖力しか使えないでしょう。戒力かいりきなんてのはお坊さんが使うもんなんだから、無茶はやめときなさいよ」

 そう説得しました。でも、そいつは頑として譲らないわけです。

「俺なら絶対に戒力を習得できる。いや、してみせる」


 それから何十年も、消えかけの体のまんまで、そいつは戒力の勉強をしたんだけど、命あるものには向き不向きってのがあるわけだから、戒力は備わらなかった。しょうがないですよ、こればっかりは努力じゃどうにもならないですもん。

 そうこうしている間に、陰陽師は寿命で死んでしまいました。

 葬儀の日、そいつは人目をはばかることなく大泣きしたんですよ。

「ああ、俺は馬鹿だった。今になってやっとわかったんだ。本当はあの陰陽師を殺したかったわけじゃねえ。俺はあいつにすごい妖怪だと思われたかったんだ、認められたかったんだ。だが、それももうできなくなってしまった。この世に俺ほどの馬鹿はいねえ」

 時間を無駄にしたあげく、自信までなくしてしまったのです。


 あいつだって、まず霊泉にゆっくりつかって、体を癒やしてから頭を働かせれば、自分の目的を間違えずに済んだのかもしれません。陰陽師を殺すための戒力だなんて馬鹿なことを考えず、自分に備わっている妖力を高める鍛錬を積めば、思い出に残るようないい勝負ができたのかもしれないのにね。

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