第四話 つい出来心で

 このナオン、木陰でぼうっとしていた鳩を蹴り飛ばしたんですよ。鳩ですよ、はとぽっぽですよ。あのぼんやりとした間抜けそうな顔のぽっぽを蹴りやがるんですよ。

 私、思わず叫びました。

「こっわ!」

 でも、イケテルナオンは、私の恐怖の叫びなんて全然聞こえていないようで、次から次へと鳩を襲撃しているわけ。

 彼女は笑みを浮かべていました。それはそれは楽しげな、幸福の結晶みたいな笑顔でした。

 私、そのとき猫蹴りイケメンのことを思い出したんです。あの男も、猫を蹴り上げようと足を出した瞬間、最高の笑みを浮かべてたなあって。


 そこで、まあ、なんていうの、つい出来心でっていうんですかね。イケメンとイケテルナオンが出会って、結婚して、子供が生まれたら、どんな子が生まれるんだろうって思っちゃったんですね。妖怪の出来心といいますか、怖いもの見たさといいますか。すんげえ美貌のモンスターが誕生しそうじゃないですか。わくわくしちゃいますね。

 いやはや、私はこういうところがいけないから、仏様も私をお許しにならないのでしょう。わかっちゃいるが、やめられねえっていうんですかね。なんせ妖怪ですからね。こんなぐあいですから、私の来世なんてどうせミジンコがいいところでしょう。わかってるんですよ私は。ふん。

 おお、つい愚痴を言ってしまいました。聞かなかったことにしてください。


 そういうわけで、私、二人を出会わせまして、数年かけて交際、結婚、出産というぐあいに、うまいこと計画を進めることができたわけでございます。

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