紐三軒
【紐三軒】ひもさんげん
祭りの参加資格を町民に限るか否かで、迷い家歓待委員会はまっぷたつに割れた。僕が記す議事録には口汚い言葉がたくさんならんだ。せっかく町が潤うチャンスを。委員会の年若たちが主張すれば、八年前を忘れたんか、長らく委員に名を連ねる老人たちも鋭く応えた。外部の人間が、迷い家から椀やら土鍋なんかを勝手に持ち出したらしい。町には保養のために立ち寄っているだけなので、そういったふるまいは厳禁だった。「あのォわんさか盗まれでるんだども」迷い家の訴えにより発覚、しかもおおかたの町民はへべれけに酔っ払っていたのでなかなか捕まえられず「せっこぎすんな」など叱られる始末だった。
迷い家を修繕する職人選びも難航を極めた。後継がおらず、八年前と同じ顔ぶれだった。「役場のお兄さんよ今から修行すれば間に合うよ」あと二年でなにができるんだろう。「祭りで町おこしだ」年若たちは毎日くる。「伝統をだな」老人たちは日に二度くる。前任が町を離れた理由が最近ではよくわかる。
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