ラヴニカ

【ラヴニカ】らゔにか


 長寿の種が捕らえられたときは蓄えた記憶が売り払われることがある。私が手を出せる価格はコピーのコピーのコピーあたりの粗悪品だったが、海にまつわる記憶であればどんなものでもかまわなかった。はじめに海を観たのは父が亡くなったときで、私へ遺した記憶の中のことだった。父は傭兵としてそれなりの武功を挙げていたわりに私たちの暮らしはずっと貧しかった。傭兵などなるまいと誓っていたのだが、葬儀にやってきた同僚たちが言うには相当な報酬を稼いでいたようで、大半が記憶を買うのに消えていたと知ったのは、それらを受け取ってからだった。膨大な記憶にはもうどこにも存在しない場所が映っており、なかでも、かつて海と呼ばれた水場にまつわるものが多かった。私も記憶を探し求めるようになったのはそれからだった。

 買った記憶はノイズこそひどかったが映像は美しかった。はるか向こうまで続く水場で、巨大な生物がひるがえるさまが観える。それを鯨と呼ぶことは、父の遺した記憶で知っている。

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