桃鮫
【桃鮫】ももさめ
ここらの庭には必ず桃の木があり、春先になると濃い赤や淡い白で町ぜんたいが浮き上がったように見える。桃の花筏を目当てに観光客がやってくるくらいで、大家さん曰く、新しく家を建てるときは、いかに狭かろうと「植えるならこのあたりになりますかねえ」など提案されるらしい。植えないと断られるとも。私の暮らすアパートは実をつける種類なので、それなりに育ってきたら袋がけの作業を十五本ぶん手伝わなければならない。契約書にも明記されている。代わりに五月は家賃が安い。
大晦日は帰省することにしまして。大家さんにいってみたら「ちょっと早いけどまあ大丈夫でしょ」と神棚から弓矢をさげてきてくれた。庭にある桃の木の細枝で拵えられた弓と、葦の茎で作った矢だ。私はマフラーに首をうずめながら、町のまんなかを流れる小川へ向かう。他にも追儺に出られない人たちが水面めがけて弦を引いていた。厄払いをやらないとどうなるかは知らない。たぶん嘘だろうけど大家さんはもうすぐ百歳になるらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます