はてな町
【はてな町】まてなまち
こんなところまできてしまった。最寄駅からもうすぐ三時間になるが、沢を渡り山を越えても獣道が続くだけだった。死んだらこれを届けてほしい。亡くなる間際に祖母から渡された革の手袋は、リュックにしまってある。四十九日までにお願い。祖母はそう付け加えた。革の手袋は亡くなった祖父からの贈り物らしい。どこへいくわけでもないのに大事そうにつけていたのを覚えている。けれど両親も兄も、約束を叶える気などなさそうだった。祖母は呆けが進んでいたからいつものだと思ったんだろう。納棺のときに手袋も入れようとしたので私は慌ててとめた。上等だった手袋は、精彩がそぎ落ち、くたびれて見えた。
獣道をくだって森がひらけると集落があり、みな白装束を着ている。私を見るなり、珍しいやらこんな果てまでやら、歓声がわっとあがる。「ありがとうねえ」ふり返ってみると祖母だった。一緒に燃やした着物姿ではなかった。「これでちゃんと持っていけるよ」祖母は目を細める。まるで泣いているみたいだ。
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