茅野井町
【茅野井町】ちのいちょう
夏越の祓にはたくさんの氏子がやってくるが、招かざる者もまじっている。彼らは決まって茅の輪の一部を持って帰ろうとする。地下を流れる水が清いため、ここらで育った茅はたいへんよく吸うらしい。穢れや厄災なんかを。呪物に用いたならばてきめんに効きます。バイトの雇い主でもある宮司さんはまじめな顔で言った。はじめは疑っていたものの、盗人は次から次へとやってきて、オレは法外な報酬の意味をようやく理解する。靴紐を結わうふり、茅の輪にもたれかかる、子どものいたずら、くぐった一瞬の隙、複数で注意を引いている間……一度でも失敗したら一銭も払われない契約だったので、オレも必死だった。
報酬は無事もらえたが気になって帰りの電車で調べてみると、フリマサイトに今年分の茅が売り出されていた。一本五万から取引されている。思わずにやけてしまう。彼らが躍起だったので持ち帰ってみることにしたのだ。ポケットを確認するとすくなくとも十本はあった。電車が大きなうなりをあげて傾く。
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