税奉殿
【税奉殿】さいほうでん
社殿へ続く石階段で順番を待っていたら、かすかに彼女の歌声が聞こえてきた。本当に歌を選んだらしい。今どきお金以外を奉納する人なんて滅多にいなかった。よっぽど披露目の芸に自信があるか、無謀な若者か、あるいは両方。それなりに包んでおけば災いから免れられるが、出し渋ったり芸事が不相応と見做されたらその限りではなかった。ぎゅっと目をつむると遠い島国について話す彼女が浮かんだ。笑うとしわに隠れる目尻のほくろはずっと見えなかった。「いってみたいんだよね」私は興味なさそうに答えたけれど、やっぱりとめるべきだった。しびといただくはなかんむりなんて、ぴったりすぎる。
彼女が町からいなくなった理由について噂がさまざま流れたが、 いずれにせよ島へいったはずだった。私も渡る準備をはじめていたら、こないだようやく、彼女が奉納した歌を図書館でみつけた。節回しは書いてないからあの日の歌声を思い出してみるけど、笑った顔ばかり浮かんでいつもうまくいかない。
谷脇栗太『ペテロと犬たち』収録「環礁の国」タグワ国歌より引用
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます