睡森

【睡森】まどろもり


 あの木立へ入ってから彼女は変わってしまった。学校にもきてるし呼びかけにも応えてくれるけれど、もう名前で呼んでくれなかった。私があの夜、一緒にいかなかったから、はじめは怒っているんだと思った。でも、彼女が手のひらで覆うこともせず、無防備に歯を見せて笑う姿を目にして、私の知っている彼女ではないと気づいた。川べりの木立には決して足を踏み入れてはならない。たちまち魂が連れていかれる。ここらの生まれなら小さい頃からきつく教えこまれていたことだった。どこかへいきたい、あの家じゃなきゃどこでもいい。それが彼女の口癖だった。 だから、 ふたり揃って連れてゆかれるなら本望だったのに。でも私は両親に見つかって家を抜け出せず、なんども連絡をいれたけど「ごめん」と返ってきたきりだった。

 私はロープをくぐり、石造りの柵をよじ登ってゆく。彼女と同じところへゆけるかはわからない。けれど、私の知る彼女がいない世界よりずっとましだった。ずっとずっとましだった。

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