(8)

 美香が綱矢の浮気相手と断じるのはちがうように感じるが、藤見は一方的に美香と言い張る。堪忍袋の緒が弾けきった美香は藤見の胸倉を摑む。そのまま喧嘩になるかと気も漫ろだったが、胸倉を離した。

「私ではないです。証明しろと言われたら難しいですが、彼氏さんの話は聞いていました。相談に乗ったりしていたので、当然、お名前は存じあげています。面識は一度もないです。それに半年ほど前に別れましたけど、私も恋人がいました」

「すいませんでした」素直に非を認める藤見。「何も知らずに決めつけてしまい」

「顔を知っているのはツーショット写真を見せたことがあるから」フォローをするわけではないけど、事情を知らない藤見にもっと早く説明しておくべきだった。誤解は生まれなかった。

「飾磨さん、彼氏自慢するタイプだったんですか? 幻滅です」藤見は舌を出して、うげえと言う。この娘はわたしをどんな人間だと思っていたんだ。わたしは彼氏が出来ると必ず友人に紹介するようにしている。そうでないとわたしはすぐに浮気に走っていた。自分への戒めみたいなものと受け取ってもらって構わない。

「学生時代からそうだけど? 浮かれやすくて飽きやすいからいいおとこがいれば、すぐに肉棒に飛び込んで子宮を満足させてあげる。わたしはそうやって行きて来た。綱矢に出会って、人を愛する難しさと尊さを知ったつもりだったけど、わたしだけだったみたい。それだけのことをして来たわけだし、因果応報なんだろうね」

「前置きに恋愛遍歴や人生経験を語り出す人、軽蔑します」素直な気持ちを吐露する。「おじいちゃん先生がくどいくらいに自分の人生を自慢して来るんですよ。教職は誇れる仕事ではないですから。それなのに、誰々は私の教え子だったんだぞと言って来るわけですよ。こちらとしては知らんがな! になるじゃないですか。反応悪いと説教を喰らうわけです。理不尽にもほどがあると思いませんか?」

 思っていたとおり感情に体重が乗っている。鬱憤が溜まっているんだな。

 内外にストレス溜まる要因に晒されているのね……

「うちの会社にもいるよ。早く結婚しろと言う癖にいざ、結婚して妊娠して、育休取得しようとするとねちねち言われる。本当、難儀な世の中になったなあと思うよ」

「何処も一緒なんですね」藤見は溜息を吐く。「食欲に全振りするんです! 食べれば嫌なことも綺麗さっぱり忘れられますから!」

 注文した料理が大食い選手権みたいに運ばれる。正直、テーブルに置くスペースがない。どれだけ注文したのよ、この娘。たくさんの美味しい料理を眼の前にして、眼福の表情をうかべる。食べることでストレスを解消しているみたいだ。

「食べてますから、お話の続きどうぞ」藤見はお皿を自分の前に置く。静かにしてくれるのは有難い限りだけれど、もう話すことないんだけど……

 わたしは美香を見る。

 彼女は微笑を湛えるだけで何も言わない。

「ご本人に尋ねるのがいちばんだと思いますが、切り出し難いのは確かですね」美香は携帯を操作する。

 テーブルの脇に置いていた携帯が振動する。確認する気はないのだが、見たほうが良い気がするのでそっと携帯を手元まで運び、画面を表に向ける。

 通知が一件入っている。

 綱矢からだ。

 しょうもない内容とは思うが、これはわたしの想像でしかないのでアプリを開く。いちばん上にピンされているチャットを開く。

『きょうは帰らないから』

 ひと言コメントみたいな内容の文章が送られて来た。

 だからなんなんだ。

 つまらねえ内容を送って来るなよ。

「苛立ってますね。あー、しょうもないですね」画面を覗き込むなり美香は鼻で笑う。「旅行に出掛けているのに不自然な内容ですね」

「そうなんだよねえ。わたしが聞いてないと誤解してる?」

「先輩が話を聞かない−−聞いていないはずがありませんからね。先輩の耳聡さは地獄耳ですからね。まあ言い訳出来るように事前に言っておけば良いと思っているんだと思いますよ」美香は言う。わたしたちの会話を藤見は何処まで聴いているか判らないけれど、神妙な顔でこちらを見ている。興味はあるようだけど、プライオリティは食であるらしい。

「わたし、帰るね」鞄から財布を取り出す。

「ああ、そうですか」ふたりきりにしないでという顔でわたしを見る。

「仲良くしなさい。彼女と関係を築くの今後の貴女の人生に必要不可欠かもしれない。支払いはわたしがするから。ゆっくり親交を深めなさい」

 ふたりに手を振る。

 美香は苦虫を噛み潰した顔でわたしを見る。

 捨てる神あれば拾う神ありよ。


 予定が入っていないことに賭けて、ネギくんに電話を掛ける。

「もしもし。どうしたの? きみが電話を掛けるとは、明日は季節外れの雪かな」

 冗談を交えつつネギくんはワンコールで電話に出る。

 電話は嫌いと勝手に思い込んでいたけど、そうではないようだ。思い込みは何ごとに於いても健康に毒だ。

「今、時間いい?」わたしは尋ねる。

「構わないよ。仕事も一段落したから」ネギくんは答える。

「お仕事してた? 邪魔しちゃったかな? あ、でも一段落したと言ったか」

「本当にどうしたの? 三日湖さんらしくない。押し掛けようか悩んだ末に浮気相手に電話で確認するみたいだけど」嫌に具体的なことを言う。小説家を職業にしている人はみんなこうなのか? コメディドラマの影響でも受けたのか?

「どうもしないけど、はじめて電話するから、出ない可能性を考えてたと言ったらどうする?」ひとどおりが少ないとは言え、店先で電話をし続けるのは客の邪魔になるので当て所なく歩くことにする。足を踏み出したと同時に店からギャルメイクで傷みに傷んだ金髪ヘアのおんなと両耳にピアス、センター分けのおとこが出てくる。

 背後から血相を変えた美香が顔を顰めて現れる瞬間まで視界に入り込む。

 修羅場は唐突に訪れる。

「あー、ごめん、ネギくん。会えなくなった」


「説明してもらえるのよね?」

 ピリピリした空気がテーブルのみならず、店内じゅうに漂っている。その所為もあるのだろう、他のテーブルから向けられる視線が気に障る。せっかくのアフタヌーンを邪魔しやがって、痴話喧嘩は余所でやれよ。そんな視線が一斉砲火ばりに浴びせられる。こちらとて、そのつもりはなかったさ。店を変えようと店先で提案までした。しかしギャルメイクおんなが陽射しを浴びたくないと抜かしたがために店に戻る羽目になってしまった。

 凡てはネイルを自慢げに見せびらかしているこのおんなの所為。

「説明もなにも見たまんまじゃない?」ご自慢の爪をへし折ってやりたい気分を抑えつつ、笑顔を作る。作り笑顔など簡単に見抜かれてしまうのも承知で。

「そう? 噓吐き野郎に訊いたつもりだったんだけど?」笑顔を崩すな! そう自分に言い聞かせる。「蒼醒めた顔をしてる彼にわたしは質問したはずなんだけど」

「あっそ」眼に悪そうな配色のネイルをまじまじと見詰める姿は水槽で南米を中心に生息している毒蛙を生育しているようにしか見えない。観察日記も書いているにちがいない。「どうでもいいんだけど、眉間に皺を寄せてると十歳は老けて見えるよ?」

 おんなはけらけらとわたしの眉間を指差しながら大笑いする。

 いちいち、気に障るおんなだ。

「質問を変える。言い訳したいことある?」

「……あるわけないでしょ。綱矢くんがこうしてうちの隣に座ってるってことがもう答えじゃんか」おんなはネイル越しにいやらしい眼付きでわたしを見る。「それともなに? わずかな希望でもあると思ったわけ? そうだとしたら、おめでたい頭してるじゃん、あんた。うける」

「感じ悪いね」藤見が小声で美香に話し掛けるも無視される。反応してはだめだと自身に言い聞かせてでもしているかのように見える。

 依然、綱矢は今にも意識を失いそうな顔をしている。

 ばれないとでも思っていたのか、あるいはLINEしてしまったことに拙いと勘づいたか。いずれにせよ、凡ては綱矢が仕組んだ芝居だったわけだ。

 口裏を合わせるにしても、もっと巧妙なやりかたがあったろうに。

「友達に噓を吐かせた罪悪感はおあり?」眼も合わせようとしない綱矢に質問を投げる。ギャル子がわたしに鋭い視線を向けて来るが無視だ。浮気相手が本命に敵視する意味がわからない。「それともお友達を含めての茶番だったりするの?」

「なにを言っているか判らないんだけど。っていうかさ、さっきから自分が本命、みたいな顔をしてますけど、浮気相手はあんただかんね?」

「は?」

「怖っ。ひとりは殺してる眼でうちを見ないでもらえます?」したり顔でおんなは言う。殺したくなる衝動を抑えているのは間違いないが、このおんなを殺す価値はない。「間違いは訂正しないと行けないじゃないですか? 最近、特にそういうフウチョウ? ジョウセイ? じゃないですか? しっかりそこら辺は言っておかないとなあ的な? ねえ、綱ちゃん?」

 おんなは焦点の定まっていない綱矢の顔を自分に向けるなり、自分の唇を重ねる。

 見せつけてくれる。しかし意外なことに嫉妬は湧き起こって来なかった。存外に冷静なわたしがいる。そっちのほうに驚く。綱矢に恋愛感情は抱いていない。そう冷静に分析している自分がいるのも確かで、品性を失したキスを交わすふたりに嫌悪感を抱けてしまえる今のわたし。

 遠回しなことをせず正面突破すれば良かった。

 素直になるだけでリレーションシップの解消に到れたと考えるだけで肝が冷える。

「人の眼の多いところでキスは止めろ」綱矢は顔を逸らして、熱いキスから逃れる。おんなは逃げようとする綱矢をすぐに捕まえて、唇を重ねようとするも拒否される。下唇を突き出して、意地悪と言う。「これだけの人がいる前でする行動じゃないとしつこく言ってるだろ。何時になれば解ってもらえるんだ?」

「何時になれば? へぇ、おふたりさん、お付き合いが長いんですね」藤見はスマホを見ながら指摘する。LINEの返信でもしているのだろうか。あるいはネットニュースを見ているのか、わたしの座っている場所からでは判じられない。

 自分の発言が失言であることに気が付いた綱矢の眼が泳ぐ。

 それはもう自白。

 墓穴を掘るとは、随分と脇が甘くなったものだ。付き合う相手は真剣に考えないと綱矢のように体たらくになってしまう好例だ。

「いや、そういうことじゃない。彼女は会う度にこうしてどころ構わずキスを」またしても盛大なお漏らしをする綱矢。口を滑らせるレベルを遥かに超越している。人間、信用を失うのは一瞬と世の著名人然り政治家(はじめから信用などありはしないか。彼らを“先生”と呼びたくのに先生と呼ばないと機嫌を悪くする政治家は一定数存在するので、笑顔を絶やさすに先生と明瞭に呼ばなくてはならない)が毎度のようにわたしたちに示してくれる。いまさら話すことではないが社会的信用を失した人間は往々にして後ろ指を指されるまでが一連の流れ(ことあるごとに叩かれる)。

 綱矢もまたこの瞬間にわたしの信頼を喪失した。

 これ以上、元彼氏の顔を見たくもない。

 おんなの言うとおりにわたしは最初から“本命”ではなかった。浮気相手だった。

 しかし、彼女がそう言っているだけで綱矢の視点から見ればちがうかもしれない。一縷の望みなどありはしないように思えるが、まあまあ一応、この物語の語り部の“ひとり”として、尋ねないわけには行かない。

 信頼出来ない語り部に成り下りたくない。

 せめて、読者の信頼くらい−−読者がいるのかわたしは知らないが−−は獲得しておきたいもの。

 足掻いているだとか、みっともないとか心無い言葉は胸のうちに閉まっておいてもらえると有難い。決して、ネットに書き込んだりしないように。

「わたしは本命ではなく浮気相手だった? これだけでは答えて」

「だーかーらー、浮気相手だって言ってんでしょう。まだ判らないの? 三十間近の相手をしてくれてるだけ感謝しなきゃじゃん、おばさん」おんなは癪に障ることを平気で言えてしまえるようだ。おんなの敵はおんなであるし、嫉妬も僻みもおんなの醜さが全部出ている。

「あんたには聞いていないんだよ、黙れ。糞おんな。もし次、口を開いてみろ? 殺すぞ」滅多なことで怒ったりしないのだが、こればかりは堪忍袋の緒が切れてしまった。わたしの怒声が店じゅうに響き渡り、一斉にわたしたちを見る。修羅場は見せ物ではないのだが、見せ場のひとつくらい作るしかなさそうだ。

 わたしは手元のグラスを手に取り、おんなの顔にかける。

 おんなは最悪なんだけどーと言って、グラスを持ち上げてわたしにかけようとするが、中身が空っぽだったらしく、空を切っただけだった。

 無様な姿に鼻で笑ってしまった。

 おんなの顔がいちごみたいに赤くなっていく。恥ずかしいところを見られたことに身体がわなわなと震える。

 平手打ちをお見舞いするのも一興かと思ったけど、やりすぎは良くないので控える。わたしが繰り出すビンタが見たかった人は想像で補って♡

「三日湖、流石に限度を超えていないか?」

「あら、そう? 適切だと思うけれど」

「やりすぎだ」綱矢は顔を顰める。「八つ当たりのつもりか? 自分が選ばれなかったから。お遊び気分で付き合ってあげただけ本望だと思ってもらわないと。結婚の話をされたときは頭イカれてるのかと疑ったよ。笑いを堪えるのに必死だった」

「ちょっと、その言いかたはないんじゃない?」藤見は綱矢を睨みつけるが開き直っている綱矢に通用しない。好意的に見られることを諦めると人間は本性を隠すことを止める。多くの犯罪者を相手して来て知ったことだ。なかには良く見せようとして化けの皮が剥がれることもままある。

 わたしは恋に恋して彼氏だと思い込み、綱矢の本性を見抜くことが出来なかった。

「そう? 浮気相手と結婚しようなどと普通のおとこは微塵も考えないと思うけど? だってさ、考えてみてよ、浮気するってことは人によるけど、付き合ってる相手に飽きたかばれるかばれないかのスリルを楽しめるクズがすることなんだよ。もっと言えば、おとこを見る眼がない奴に仕掛ける罠なのさ。相手にその気にさせて、いいように言う。これさえ守れば誰でも好き放題、浮気し放題、快楽に溺れ放題。どうだ、あんたも火遊びしてみないか?」

 綱矢は気楽にトリップしてみないかと誘うように藤見に言う。

 わたしのおとこの見るの無さは綱矢の言うとおりかもしれない。それと同時に若い頃に遊びに遊びまくったツケが回って来た。

 これは浮気とは言わない。

「–−する必要ないよ」

「先輩、本当に来てくれたんですか?」藤見が驚いた顔で言う。

「たいへんなことになっているから加勢に来てくれと頼んだのはきみだろう」ネギくんは面倒臭そうな顔で藤見を見る。何時の間にネギくんに連絡をしたのだろう。抜け目がないというより、隙がない。「事情は彼女から聞いている。ぼくに助け舟を出したところで事態を収拾する能力は皆無だけど、それでもひと言、言わせてもらうとすれば、飾磨さんを即刻解放しろ。そして、地獄に堕ちろ」


「面倒ごとに巻き込まないで欲しい」タクシーのなかでネギくんにそう言われた。そんなつもりは一切なかったが、結果的に巻き込んでしまったのは事実。愚痴を言われるかと想像していたけど、彼はそれ以上のことは言わなかった。

 藤見と美香は気を遣ったつもりだろう。ふたりで買い物に行くからと言って、タクシーに乗り込まなかった。要らない気遣いだが、好意は素直に受け取ることにした。

 結局、おんなの名前を聞きそびれた。

「水科ナンシー」ネギくんはわたしの心を見透かしたように名前を口にする。「あのクズ野郎が付き合ってる相手の名前」

「調べたの?」

「瑠璃元さんが写真を送って来たから、編集さんにそのまま転送して調べてもらったんだ。そしたら、ギャル向けのファッション雑誌で読者モデルとしてることが判明した。そのあとにSNSを漁って知った情報だけれど、彼女は歌舞伎町でキャバ嬢として働いている。それと業界のお得意様が何人かいる。そのひとりが彼だ」

「綱矢が?」

「あの人の顔、どこかで見たことあるなあと思ったら、少し前にぼくの作品を映像化したいとプロデューサーと同席してた。まあ断ったけれど」ネギくんは言った。「三日湖さんは知ってた? 彼が映画業界で仕事をしてること」

「いいえ」わたしは首を横に振る。「大企業に就職したのは聞いたけど」

「外資系の会社に就職したみたいだけど、一ヶ月で辞めてる。そのあとに映像制作会社に就職してる。お友達がそこで働いているみたい」ネギくんは言う。「水科ナンシーは過去に大麻所持で逮捕されたことがある」

「え、そうなの⁉︎」わたしはネギくんの横顔を見る。彼は無言で頷く。「もしかして、貝原佑?」

「正解。きみが口説かれた売れない俳優と彼女は繋がってたというより、結婚前提の交際をしてた。ちなみに彼女は三十過ぎてる。雑誌では二十五歳と言ってるようだけど」

「年齢詐称してたの?」うわあと思いつつも、あれだけ濃いメイクをしているのは実年齢がばれないためと言われたら納得する。取り繕うのはそれなりに理由がある。「綱矢はそのこと知ってるの?」

「彼の父親が関与している」ネギくんは情報を坦々と話す。解決し終わった事件の補完をする探偵みたいだ。「毒島綱矢の父親、毒島洋平は貝原佑と懇意な関係にあり、水科ナンシーを愛人にしていた。彼女の奔放さに呆れた洋平は貝原に宛てがった。息子の綱矢は彼女に惚れたが父親に止められて、敢えなく失恋。貝原がドラッグ関連で逮捕されて、彼女も煽りを受けた。綱矢は是が非でも彼女を助けたいと懇願した」

「それじゃあなに? 綱矢は最初から知っていたの?」わたしは尋ねる。

「毒島綱矢にすれば、愛しのナンシーと付き合えないのは貝原佑のアプローチを断った飾磨三日湖の所為と感じていても不思議じゃない」

「要するにわたしと付き合ったのは復讐するため?」わたしは尋ねる。

「そうだと思う」と言って、ネギくんはシートに背中を預けた。

 暫しの沈黙が流れる。

 ネギくんを盗み見るとスマホを触っている。返信でもしているのだろうか。ソーシャルゲームに興じているのか。

「わたしが綱矢と付き合いはじめたのは彼が大学の卒業と就職が決まってからだけど、その前から綱矢は水科ナンシーに恋焦がれていたの?」

「たぶんとしかぼくは言えない」ネギくんはスマホをスワイプしながら言う。話すことを話して満足したようだ。一瞥もくれない。興味を完全に失っている。これがあたりまえのように他人に向けられているのだ。きちんと触れたことがなかったからこそ感じる恐怖にわたしは打ち震える。「浮気ではなく浮気相手だったのは、意外だった。だからこれは浮気とは呼ばない」

 

 

 



 

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