第27話 騎士の態度は不自然すぎる
一気に入ってきた情報が多すぎて、また疲れが出てきた。というかお腹がすいたのだけど、食事を持ってきますと言ってくれた騎士はどうなっているのか。
そんな風に思っていると、食事を探しに行った騎士がようやく戻ってきた。
「食事をお持ちしました」
「ありがとうございます、ここに置いてくださ、……い」
なんて思っていたら、入ってきたのはシェリオさんだった。ちらと私を見て、安心したという表情を浮かぶ。シェリオさんにも心配をかけてしまっていたようだ。
どこから持ってきたのか分からないけれど、器には焼きそばのようなものと、焼いた鶏肉が盛り付けられている。焼きそば風からはソースのような良い匂いがしているし、焼き鳥もタレと野菜が美味しそう。それに果実まで添えてある。
「やった、美味しそう!」
お腹は空いていたから、思わず笑顔になってしまう。なにせ一日半食べていない。
急にこんな重そうなものが食べられるかなとも思ったけれど、美味しそうな匂いは私のお腹をどんどん刺激する。
食事を置くと、シェリオさんはそのまま出て行こうとした。その行動はダリウスさんも意外に思ったのか、扉に手を掛ける前に彼を止めてくれた。
「シェリオ、交代だろう? どこへ行く」
「……扉の外に立つ」
シェリオさんは露骨に私と視線を合わせようとしない。私は思わずダリウスさんのほうへ視線を動かした。微妙に表情を変えた様子から想像するに、やはりクリフトンさんあたりと一戦交えたのだろう。
きちんと話をしたかったけれど、今なにか喋りかけてはシェリオさんの心をまた騒がせるだけのような気がする。そう考えた私は、まず食事をすることにした。お腹がすいたままではなにも出来ない。
私は立ち上がって台所へ向かうと、箸を持ってきた。器には先割れスプーンのようなものが付いていたが、麺を食べるならやはり箸だ。ちなみにこの国に箸なんて文化はなかったので、私はここ数ヶ月かけてマイ箸を作り出して使っている。
余った先割れスプーンは、扉に手を掛けたままのシェリオさんに敢えて差し出した。
「シェリオさんも、食べますか?」
「食事は交代でとっているので、問題ありません」
「なら、いただきます!」
なんだか微妙な言葉遣いは気になったけれど、まずは食事だ。折角温かいのだから、食べてから考える。手を合わせて宣言すると、私は箸で食事を始めた。ダリウスさんと、私のおかげで出るタイミングを失ったシェリオさんはなるべく見ないように体の向きを変えてくれた。けれど、どう見ても木の棒にしか見えない箸で食事をしている私の様子は、気になるらしい。
「美味しい! 焼きそばみたいだけど、もっと麺が柔らかくて短いですね。ソースっていうより味はケチャップに近いかな。見た目は焼きそばだけど、ナポリタンみたい」
食レポしながら食べる私を、シェリオさんはとても気にしているのがわかる。
ふふふ、さぞや気になるでしょう。なにせずっと憧れていた異世界から来た聖女の食生活だ。いつだったか果物を持ってきた時だって、同じものを口にできる喜び! なんて熱く語っていたし。
「シェリオさん」
「なんでしょうか」
「ありがとうございます、美味しいです」
私はにっこりと笑ってシェリオさんを見た。彼はほんの一瞬、嬉しそうに表情を緩めたが、またすぐに硬く引き締めて視線を逸らしてしまった。
「お口に合ったなら、良かったです」
鶏肉みたいなのも、前に私が唐揚げを作ったものと同じ肉だろう。柔らかくて野菜も沢山付いていて美味しい。どこの料理か後で聞いたら教えてくれるかな。そう思いながら、私は焼きそばナポリタンと謎の肉を完食した。
我ながら、疲れ果てて気絶していたとは思えない食欲だ。
「果物は、一緒に食べませんか?」
私は二人を交互に見て提案した。ダリウスさんはシェリオさんを見て、彼が応じるならといわんばかりの態度を示している。
シェリオさんはちらちら私を見ているのになかなか頷こうとしない。だから私は勝手に果実を切り分けることにした。
添えてあった果実は、前にシェリオさんが差し入れてくれたものと同じだ。皮は渋いけれど実は甘酸っぱくてとても美味しい。
ちなみにこれはかなりの高級果実らしい。とても美味しくて後で買い物に行った時に探したら、とんでもなく高値で取引されていた。だから私も、たまに自分へのご褒美として程度にしか食べたことがない。
ちなみにこの国の人は、厚く皮を剥いて食べるらしいけれど、私はそれよりもっと簡単な食べ方を見つけている。
ナイフを持ってくると、まず丸い果実を真っ二つに切る。半分は私が貰うことにして、もう半分は適当に切り分けておく。皮なんてものを剥く気はない。
「皮は渋くて食べられないだろう」
「面倒だし剥きません。食べなきゃいいじゃないですか」
大雑把に切っていく私を見てダリウスさんが言ったけれど、私はけろりと答えた。ちなみに上手く言い表せないけれど、日本の食べ物に例えるならつるつるで丸いパイナップルといった感じで味も近い、芯はないけれどものによっては種がある。
「たぶん、献上するときは皮を剥くってだけですよ。絶対このほうが美味しいし簡単に食べられます」
「なんというか、とても合理的ですね」
「大雑把って言っていいですよ。文化の違いもありますけど」
半分に切ったほうは、さっき焼きそばについていた先割れスプーンを使うことにした。案の定、フォークでもスプーンでもないこれは、この果実を食べるのにちょうどいい。
切り分けたほうを二人に差し出し、私は半分のほうをすくって食べはじめた。
二人とも、そんな私をすごく驚いた目で見ている。これはきっと一周回って新しいみたいな感覚で見ているのだろう。そんな視線なのはよくわかる。
私は果実をすくって食べながら、ちらりとシェリオさんを眺めた。綺麗な顔立ちには、疲れ浮かんでいるように見える。もしかして、私が倒れてから休んでいないのかな。
栄養もあるし二人も少しは食べて欲しかったけれど、二人は律儀に立ったまま動かなかった。勿体ないので、結局切り分けたほうも私のお腹へ入った。
「ごちそうさまでした」
この国に食事の挨拶なんて習慣があるかは知らないけれど、その言葉は私の中ではもうすっかり馴染んだ食事の一部だ。手を合わせて唱えるだけで、気持ちが切り替わる。
「さてと、あのう、街を見に行きたいんですけれど、いいですか?」
「それは構わないが、今の王都は少し混乱している。護衛は付けさせてもらう」
護衛という言葉に、シェリオさんがぴくりと反応した。彼がずっと憧れていたのは、聖女の護衛をする騎士だ。その聖女が私というのはなんだか申し訳ない気もするが、私だって聖女という自覚はまだあまりないし仕方ない。
私は敢えて彼の方は見ないようにして答えた。
「今日の護衛にはシェリオさんに付いてもらいます。今後はまた考えます」
「わかった、騎士団やクリフにはそう伝えよう」
ダリウスさんは私の言葉にしっかりと頷いた。おそらく私が目覚めた時に知らない騎士がいるよりも安心するだろうという理由で、いてくれたのだろう。
「それじゃよろしくお願いします、シェリオさん」
「……承知いたしました」
あらためて向き直り笑顔で挨拶をしたが、彼の返事は固かった。そのあたりも含めて、シェリオさんとも話をする必要がありそうだ。
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