第23話 国王様に会えますか?
「昼頃まではかろうじて反応していたが」
「どちらかというと調子がいいように見えました。今思うと、おかしいくらいの反応の良さでした」
説明を聞きながらそっと石に触れてみる。大聖石は冷やりとしたまま、私が触れても何の反応もしない。少しずつ加護の力を強めていく。
「ミズキの力でも、反応なしか」
「ちょっと待ってください、もう少し、これならどうかな」
さらに力を強めた所で、短くした私の髪がふわりと浮いた。胸元にペンダントとして下げている髪色変えの聖石がチカチカと光っているのが自分でもわかる。
「今、わずかに反応したような!」
「あまり無理をなさらないで下さい、ミズキさん」
「ミズキ、そこまででいい」
目一杯力を込めた所で、ようやく大聖石が反応した。本当に少しだけど、手が触れているところが淡く光り、光の振動が全体へと伝わっていく。ただそこまで確かめたところで、アグノラ様とクリフトンさんが私の行動に待ったを掛けた。
大きな声ではなかったけれど、二人にはっきりと言われ、私はそこで力を抜く。
酸欠のような、体から力が抜けるような感じがする。加護の力は、この世界に来た時から使えたし、使っていて疲れるということはなかったけれど、さすがに沢山使うと疲れが出るらしい。
「今日のミズキさんは、水の大聖石にも力を使っております。なにか出来ることがあったとしても、それは今ではないほうがいいと思います」
アグノラ様が、私や他の人達にも言い聞かせるように言ってくれた。
それから私と入れ替わるように大聖石のそばに立つと、同じように手を当てて様子を診始めた。アグノラ様は感知に優れている聖石師なので、ひょっとしたら私にわからないこともわかるかもしれない。
この場はアグノラ様に任せ、私は少し離れた神殿の広間にぺたんと座り込んだ。こうしていると、神殿の中が天井から大聖石までよく見える。なんだか近くで触れている時には見えなかったものが、こうしていると見える気がする。
「ここって、とても綺麗だけどいつもこんなに寂しい場所なのかな」
「聖石にもっと光が溢れていた時は、一般にも開放していた。ただ大聖石の負担が増え、光が徐々に失われてきてからは、ずっと閉ざしたままだ」
座り込んで呟いた私に答えてくれたのは、ダリウスさんだった。突然座り込んだ私を心配してくれたのか、聖石師などが沢山いるこの状況で近くにいても出来ることはないからだろう。
「この大聖石の調子が悪いことは、王都の人たちは知らないんですか?」
「公表はしていない。だが、ここまで状態が悪ければ感じ取る者もいるだろうし、ほとんどの王都民は察しているだろうな。現に神殿はどうなっていると問い合わせる者もいる」
「そうですか」
座り込んだまま話を聞いていると、壁際にある扉の向こうから人がやってきたのが見えた。騎士らしき制服を来ているけれど、ダリウスさん達と色が違う。
大聖石のあるほうをしきりに気にしていて、声を掛けたそうにしているから、誰かを呼びに来たのかもしれない。しかし、ちょうどアグノラ様がなにか話をしているところで、みんなそちらを向いている。
用件があるなら入ってこればいいのに。その騎士は、扉の側から動かず大きな声も出せずに立ったままだ。
私はゆっくり立ち上がると、騎士さんへと近付く。
「どうしましたか?」
「えっ!」
「誰かに用件なら、呼びましょうか」
騎士さんは急に話しかけた私に吃驚したように目を見開いたが、すぐにきりりと表情を引き締めて言った。
「ジェラール殿下に伝言を承っています」
「ええと、はい」
全く知らない人の名前が出てきて、聞きに来たことを少し後悔した。そういえば私はここにいる神官も聖石師も名前はよく知らない。まさか殿下なんて呼ばれる人があの人だかりの中にいるなんて、まったくわかっていなかった。
まさかそのひと誰ですか? なんて聞き返せない。
少し悩んだ挙句、私はダリウスさんへと駆け寄った。間違いなく殿下は彼じゃないし、かつ殿下を知っていそうだ。そばまで駆け戻ると、ダリウスさんの騎士服をそっと引いてこちらに注意を向けさせた。
「ダリウスさん、あそこで誰かを呼んでいますが、ここにいる方ですか?」
無礼があってはいけないので、一応小声で聞いてみる。
「ん? なんだ?」
「あそこの騎士が、ジェラール殿下って人を、探しているみたいです」
指差すのは失礼だろうと思ったけれど、私はわかりやすいように扉のそばに立っている騎士さんを示す。ダリウスさんはちらりとそちらを見ると、大股で大聖石のほうへ向かった。私も慌てて後を追う。殿下なんてひとがいるなら、知っておきたい。
「クリフ、ジェラール殿下が呼ばれている。お前は居場所を知っているか?」
「この状態で、誰が呼んだ?」
ダリウスさんがさらに殿下のことを聞いてくれる。クリフトンさんに聞くってことは、その殿下はここにはいないらしい。でもクリフトンさんも今取り込み中らしく、それどころじゃない、と表情に目一杯出ている。
クリフトンさんが壁際に立っていた騎士さんをちらりと見ると、そこでようやく騎士さんが駆け寄ってくる。クリフトンさんの前に立つと、はきはきと喋り出した。
「国王陛下がお呼びです。その、状況をお知りになりまして、聖女様にお会いしたいと」
「この国の、国王陛下が私に会いたがっている?」
聞こえてしまった言伝に、思わず私は吃驚して声が出てしまった。言った後でそういえば隠していたっけ、と思い出したが気に留める人はいなかった。
聖女が国王に呼ばれているということのほうが大事のようだ。
でも急に王様が会いたがっているなんて、どうしよう。間違いなくこの大聖石の件だろうし、髪を切ってしまって調律ができない今の私は、合わせる顔だってない。
「責任なら私が取ると言ったはずだ、そう伝えろ」
クリフトンさんは、はっきりとした口調で伝言を持ってきた騎士さんに言い放った。王様の伝言を持ってきたならば、この騎士さんはおそらく第一師団か近衛の騎士といったところだろう。知らない色の騎士服を着ているなって思ったけれど、私は今までシェリオさんやダリウスさんのように第二師団の騎士しか会ってない。
「いえ、その、そうではありません」
騎士さんは、王様の伝言を持ってくるくらいにはエリートだろう。それなのにどうしてクリフトンさんに対して腰が引けているのか。でもそれよりも、王の騎士に対しても、いつもの冷静な視線なクリフトンさんは何者なのか。
クリフトンさんは冷たい視線で脅かしまくっているが、騎士は懸命に伝言を伝える。
「この国の王として、すべきことをしたいと、そのために、聖女様の意見をお聞きしたいそうです」
「あの、会えますか? 国王様に」
「ミズキ?」
私はつい会話に割って入っていた。王様に会った所で、責められるかもしれないし、事態は変えられない可能性だってある。でも聞いた伝言の通りに王様が考えてくれているなら、ひょっとしたらこの状況を動かせるかもしれない。
「私に考えがあります。でもそれには、誰よりも国王様の力が必要かもしれません」
私はまずクリフトンさんを見上げ、はっきりとした口調で言った。
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