のんべんだらり
「君がもしも金銭的援助を必要とする程困窮したら、僕は君の左の足を買おうと思う。」
ㅤそいつは、蕎麦をすすりながらわけのわからないことを言い出した。食堂の賑わいが耳から遠ざかる。
「人間の足は着脱式じゃないぜ。」
「たしかに僕は君に足の速さで敵わない。でも、それなら両の足を買うさ。」
「いや、片方でも売らねぇけど。」
ㅤ俺のラーメンからナルトを盗もうとする箸を払うと、奴は不満げな顔をした。仕方ないからメンマを分けてやる。
「もし金が無くなったとして、お前に頼るくらいなら道端の草でも食う。」
「君、ヨモギは嫌いなんじゃなかったっけ?」
「他にもあんだろ。タンポポとか。」
「親切心、なのになぁ。」
ㅤ椅子にもたれ掛かり、あーあと大仰な素振りで残念がる。どこが親切だと言えば、「君が誰かに攫われてしまわないようにね」と微笑まれる。わけがわからない。
ㅤ奴が身を乗り出し、椅子が音を立てて揺れた。
「足が減るのが嫌なのなら、足売りばあさんでも呼べばいいよ」
「なんだよそれは?」
「知らない? 足をいらないかって聞いてきて、いるって答えたら一本持っていかれて、いらないって答えたら増やされるって都市伝説。」
「とんでもねぇな。」
ㅤ奴は面白そうに笑う。こいつは都市伝説だとか、UMAだとかそういうものが好きらしい。俺にはさっぱりだ。
「増やしてもらったら一本くれたらいいよ。」
「だからやらねぇって。」
「言い値で買うよ。」
「だってお前それ、足なんて買ってどうするつもりなんだよ?」
ㅤ言えば、奴はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに満面の笑みで言い放った。
「決まってるだろう。食べるのさ。」
ㅤあまりにタチの悪い冗談に、うわぁと声が漏れる。そんな俺を見て、「ひどい顔だな」と奴は笑った。
ㅤ人の顔を指さすんじゃねぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます