ドルメン 第 57 話 ルイス ヘストソの家の秘密


「私はお父さんが思う以上のことを知っているの。お父さんは教団に属している。シスネロス教授が紹介したのよ。ルイスを教団に紹介したのは、多分お父さんね。最後のドルイド大僧正だったシャルル パンポン父子とも交流があったでしょう」

 父は答えなかった。震えた手に持つ懐中電灯が、棚や隅を照らしていた。

「アルトゥーロ、どうして答えないの? シャルル パンポンとは誰なの?」

 アルタフィの母が聞いた。父はやはり答えなかった。代わりにアルタフィが今まで誰も知らなかった真実を告げた。

「シャルル パンポンは、お母さんのお父さんよ。私のお祖父じいさんね」

「なんですって? 何を言っているの?」

 父も答えた。

「何だと? お母さんがパンポンの娘だと?」

「お母さん、思い出して。お祖母ばあちゃんの家に少しの間滞在して、彼女を身ごもらせたフランス人よ。彼はシャルル パンポンというの。教団のドルイド大僧正でアンダルシアにドルイドの血族を探していたの。うちは最も重要な家系なのよ」

「あなた、どこでそんなことを?」

「それだけじゃないわ。教団はジブラルタルに会社を持っていて、その会社がお祖母ばあちゃんの家を買ったの。それ以来ずっとあの家を守っているの。聖地として。二人とも知らなかったでしょう読者も今初めて知りました……

「どうして……。私の周りにはいつも秘密があった。そして、今あなたがそれを暴いた。私の呪われた過去。そこからはどうしても逃れられないのね。母、そしてあなた……、魔女……」

「お母さん、目を背けていないで現実に向き合うときよ。お祖父じいさんはお母さんのことを心配していたのよ。だから、自分の息子に遠くから見守るように言ったのよ。息子の方のシャルルが自分の死を予測したとき、大僧正の後継者争いが起きるのを見越して、私を守るようにその子に言ったの」

「あなたを守る? なぜ?」

「お母さんから引き継いだこの血のせいよ。お母さんは放棄したけれど、私は引き継ぐことを選んだ。この血を抜いて、取り入れたものが力と智慧を手に入れるのよ」

「そんなばかげた話……」

「確かにばかげた話だ」と父が言った。

「そんな複雑な話が本当であるわけがない。さあ、私が隠れていた場所を知りたかったんではないのかな唐突だな??」


 アルタフィには何が起こるかがわかっていた。この建物がどんな場所にあるかを感じていた。父は本棚の一部に手を入れて、本の後ろにあるレバーを動かした。すると、本棚の後ろ側から小さなドアが現れた。

「さあ、行こう」

 父はそう言ってドアを抜けていった。アルタフィは母に警告した。

「お母さん、本当に行くの?」

「もちろんよ。お父さんが隠れていた場所よ。私も知りたいわ」

「この先はドルメンよ。農家の下に五千年隠されていたドルメンだわ」

「どうして知っているの? ここに来たことがあるの?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言えるわ。私はここから去ったことがないというのが本当かしら。私だったら行かないわ」

「何をしてるんだ、入ってきなさい」と父がドアの向こうで言った。

「さあ、行くわよ。お父さんが一緒なんだから何も危ないことなんてないわ」

 母がドアに入った後、アルタフィは父が本棚を操作したレバーのすぐ横にフーディンからもらった携帯をおいていった。


 ほとんど四つん這いになりながら、小さくて狭い階段を降りると広い空間が広がっていた。アルタフィが中に入ると、父は再び階段を登ってドアを閉めた。金属的な機械音がしてカチッとドアが閉まった。空間には二つのドアがあった。いま通ってきたものは飾りのある門に近く、別の側面にあるものは小さい金属製のドアだった。


「今入ってきたドアはオンティベロスにあるのと同じね?」

 そういうアルタフィに、父は少し置いて答えた。

「お前には素晴らしい直感と知性がある。いかにも、ここはトロスだ。パストラのドルメンと同じ時代のものだろうが、パストラより保存状態がいい。ルイスがこの家を見に来た時に、ここを覗いて一目でドルメンだとわかったのだ。だから彼はこの農家を買い、このドルメンを発掘したのだ。考古学者がここを見つけたら悪魔に魂を売り渡してでも手に入れたがるだろう」

「ここに隠れていたの? ベッドもないし、家具もないわ」

「昼間はここに居て、夜は家に戻った」

「もう一つのドアは?」

「あれはルイスが作らせた別の部屋だ。物置になっている」

「でも、ルイスは別に地下室を持っているでしょう。警察がワイン樽を見つけたと言っていたわ。石器が見つかったとも」

「確かに農家の別の棟に地下室がある。でも、それはドルメンには繋がっていない。だから、ここのように隠されてはいない」

「アルトゥーロ、ここは気味が悪いわ。よくこんな所に居て頭がおかしくならなかったわね?」

「言ったじゃないか、夜は家に戻っていたって。それにずっとここに居たわけでもないし」

「どうしてここのドルメンの話をしてくれなかったの?」

「君は聞かなかったじゃないか」

「お母さん。お父さんと幾晩か一緒に過ごしたって言ったわね。そのときはどこに居たの?」

「最初の晩は、私の名前でホテルを取ったわ。そのほかの二晩はここよ。農家の一部屋。シスネロス教授が殺された晩よ」


 アルタフィは母を信じた。シスネロスを生贄にしたのは父ではない。だったら誰が? しかし、父の疑いが晴れたわけではない。父には更に競争相手がいるのかもしれない。

「シスネロス教授を殺したのがお父さんでなかったら誰が殺したの?」

「それはお前が一生知ることはないだろう」

 そう言って父は懐中電灯を消した。部屋は真っ暗になった。アルタフィはこれから起きる危険を察知した。

「お母さん、ここを出るわよ!」

 アルタフィは母の腕を掴み、出口へ向かった。しかし、母は動かなかった。まだ夫を信じているのだ。

「アルトゥーロ、どうしたの? 電池切れ?」

 答えはなかった。突然もう一方のドアが開き、誰かが強力なライトを照らした。アルタフィは目がくらんで何も見えなかった。突然、父がアルタフィの背後に立ち、アルタフィは首に痛みを感じた。そして意識を失い、地面に倒れた。


 *  *  *


 アルタフィは、また注射で意識不明です。この注射にマンドラゴラ エキスが入ってるってことですかね? マンドラゴラのエキスはそのまま注射して大丈夫なんでしょうか。どこまで近代的な手法が許されて、どこからがアウトなのか……。


「アルトゥーロ、どうしたの? 電池切れ?」

 お母さんは呑気すぎて危険な人物です 😑


 *  *  *


(初掲: 2024 年 11 月 28 日)


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