ドルメン 第 45 話 明らかになるフーディンの過去と使命 🫨

 それから三人は新石器時代の人々の居住地であったアブリゴ デ ボティカにやって来た。そこでフーディンはアルタフィをある一点に立たせ、パワー スポットに立つと体が軽く感じるということを体感させた。それは再び現代人がどれほど古代の智慧を失ってしまったのかを思わせる体験だった。


 次にラ クエバ デ ラス アロンドラスと呼ばれる新石器から銅石器時代にかけての住居にやって来た。水流によって螺旋状に削られた亀裂を除くと岩の壁が見えた。アルタフィは自分の感覚が更に研ぎ澄ませるのを感じた。思考が抜け落ち、色や香りに敏感になった。


「これであなたは清められました。祭壇へ向かいましょう」

 ガイドにそう言われ、アルタフィは問い返すこともなく付いて行った。そして巨大な石にたどり着いた。それは半円形の水溜めがある古代の祭壇だった。遠くにはアルミハラ山脈が見えた。アルタフィは強力なエネルギーを感じ、彼女の感覚は一層研ぎ澄まされた。


「ここは葬祭を行う場所だったと思います」

 そういうガイドに「少し二人だけにさせてもらえるか?」とフーディンが言った。ガイドはやや不審そうに「それでは離れたところでお待ちしています。必要であれば声をかけてください」と言ってその場を離れた。アルタフィも殺人事件のことが頭をよぎったが、それは一瞬のことだった。


「どうしてここへ?」とアルタフィはフーディンに尋ねた。

「わからないか? どんな気持ちになる?」

「素敵な気分よ。でも、何か話があるんでしょう? だからここまで私を連れてきた」

「……子供の頃、ここで不思議な儀式を見た。多分一九八八年だったと思う。俺は八歳だった。ドルメンの発掘をしていた祖父が俺をここへ連れてきた。夜明け前でまだ暗かった。その時はわからなかったけれど、夏至の日だった。そしてここで背の高い優雅な感じのフランス人の男が待っていた。男は、俺より少し年下に見える女の子を連れていた」


 フーディンは愛しそうに祭壇の岩を撫ぜた。その日のことを思い出しているのは明らかだった。アルタフィはその少女に嫉妬を感じた。


「ほかの人たちもいて、俺とその女の子は脇に立って人々を見ていた。彼らは半円形に並んで日が昇るのを待った。祭壇の窪みに小さなランプを灯して置いていた。美しい光景だった。フランス人は白いチュニックを着ると低い声で詠唱を始めた。そして、朝日が登り始めると、俺たちが今立っているこの場所に人々は跪いた。祖父に言われて、俺とその女の子も跪いた。それから朝日が地平線から昇りきるまでそうしていた。それからフランス人が立ち上がり、手を上げて何かお祈りの言葉を捧げた。それが終わると人々は嬉しげに立ち上がり、朝日に向かって挨拶の言葉をかけると互いに抱き合ったりし始めた。みんなはすごく楽しそうで、何人かは俺たちにキスをした。俺も楽しくなって女の子の頬にキスをした。彼女は、愉快そうな、感謝のような表情で俺を見た。青い、大きな目をしていた」


 フーディンは少し疲れたように話を終えた。アルタフィは、再びその少女に強い嫉妬を覚えた。

「これが俺が俺が始めて参加した『命の儀式』だ」

「『命の儀式』?」

「そうだ。生命と良きことを太陽が与える」

「ということは『死の儀式』もあるのね?」

「そうだ。『死の儀式』は夕闇か、新月の晩に行われる悪の儀式だ。俺は君に警告しなけりゃならない」


 フーディンは巨石での儀式に関して思った以上の知識を持っているらしかった。

「儀式を執り行ったフランス人は、ヨーロッパで最も強大なドルメン教団を率いていた」

ドルメン教団なんなの それ?? フリーメイソンみたいな秘密結社ってこと?」

「まあ、そんなところだ。十九世紀のロマン主義の真っ只中に相次いだ巨石遺構の発見は、当時の魔術的な考えを震撼させた。ドルメンはドルイドの寺院と考えられていた。最初のグループが現れて、古代のドルイドの知識や魔術の知識を復活させようとした。それが秘密結社の形をとり、今も続いている」

「じゃあ、殺された人たちは、そういったドルメンの教派にやられたということ?」

「間違いない。それに彼らを見くびってはいけない。奴らは教派ではなく、教団だ。本気の強力な集団だ」

「なぜそれを今? どうして私の知人ばかりが殺されたの? 私はどうしたらいいの?」

「君が中心にいるからだ。これから君に会ってほしい人がいる。俺よりきちんとした説明で、君をこの残虐な監獄から助け出すことができる」

「あなたは? 関連があるんでしょ? なぜ私に近づいたの? 偶然じゃないわよね」

「そうだ、偶然ではない。俺は頼まれたんだ。知り合いを通じて、ボイルをマルタに紹介した。こうすれば君に行き着くとわかっていたから」

「誰に頼まれたの? 何が目的なの?」

「もうすぐわかる。自分で聞いてみるといい。もう行こう、ガイドが痺れを切らしている。」


 しばらくの後、アルタフィとフーディンはモンテフリオにあるレストラン エル プレゴネロへとやって来た。中は混み合っていて、アルタフィは緊張しながら店の中を歩いた。最も奥まったテーブルで黒髪の女性が顔を上げた。アルタフィには、それが誰かすぐにわかった。ブリジット モルビアンだった。アルカラルでジョアン ソアレスを助けた――か、殺そうとした――フランス人女性だ。


 その途端に、なぜアルタフィのいるバーにあの晩ブリジットが現れたのかがわかった。キム フーディンが彼女の仲間なのだ。まんまと騙された自分を笑っていたに違いない。侮辱されたように感じた。フーディンはある意味正しかったのだ。呪術なんてない。あるのはトリックだけだ。


 アルタフィは歩みを止めた。このまま帰ろうかと真剣に思った。

「頼む、話を聞いてくれ」とフーディンは囁いた。懇願している面持ちだった。アルタフィは気を取り直して、逆に納得いくまでは絶対に席を立たないと決心した。


 ブリジットは立ち上がってアルタフィに挨拶をした。

「来てくれてありがとう。警察が監視しているので、こんな形で会うことになってごめんなさい。もし彼らが踏み入ったら私はこちらの裏口から出ます」

「セビーリャのバーでしたように?」

「そのとおりです。警察には金髪のブリジットとしかわかっていないので、黒髪の女が出て行っても不審には思われないでしょうから」

「あなたの本当の名前は何?」

 アルタフィは、フーディンにしたように偽名による防御を取り去ろうとした。

「今はブリジットとしておきましょう。お互いに信頼できるようになればお教えします。スペインの警察と面倒なことになりたくないので」

「でも、私があなたを信頼できないわ。偽名で会議に参加して、ジョアンを呼び出して。あなたは犯罪者の一味かもしれない。少なくともあなたの素性と目的ははっきりすべきだわ」

「だからあなたをここに呼んだんです」

「あなたのスペイン語は正確ね。スペインに住んでいるの?」

「いいえ。子供の頃から父に付いてあちこち行ったから……」

「あちこちのドルメンへ?」

「……そうね、父は巨石文化を研究していました」


 アルタフィの脳裏に白黒の古い映画のような映像が浮かんだ。背の高い優雅なフランス人男性が、アンダルシアの巨石遺構で古代の儀式を取り仕切っている。側には金髪の娘。そして褐色の肌の少年がその儀式を驚きを持って見つめている。アルタフィは遺跡で感じたように、強い嫉妬を感じた。そして、フーディンを振り返って言った。


「あなたが子供の頃、ペーニャ デ ロス ジターノスの儀式で会った女の子はブリジットなのね?」

「そうだ。そしてその時から彼女とは友達だ」

「そして私に会うように、ブリジットが言ったの?」

「そのとおりだ。ブリジットは君と繋がりたかった。俺は、マルタとジョンを通して君に会った。俺の目的は君とブリジットを会わせることだった。それが最良だと思ったから」

「ジョンは?」

「ジョンは何も知らない。ヤツは俺の計画を知らずに付いてきているだけだ。プロのイリュージョニストを目指していて、俺はそのお膳立てをするとヤツに約束した」

「じゃあ、トリックは……」

「君に嘘は吐いていない。トリックは簡単なものだ。俺は君の心配や恐怖を知っていたから、それを準備しただけだ。君を目覚めさせたくて、印象付けようと思った」

「私はそれにまんまとハマったってわけね……。ブリジット、あなたはどうして私に会いたかったの? 私に何があるっていうの?」

「最初から話すわ。あなたがなぜこの殺戮の中心にいるのかを……」“


 *  *  *


 いや、あの、言いたいことはいろいろあるんですけどね。一応、ブリジットの話を全部聞いてから。

 次回でドルメン教団ズの全容が明らかになります。ロ〜〜ンブロ〜ゾ〜〜!


(初掲: 2024 年 10 月 22 日)

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