ドルメン 第 43 話 受胎の儀式

 アルタフィはセビーリャに戻ると、その日にうちにルイス ヘストソの元夫人であるエレナに電話をした。父とヘストソとの繋がりに思いついたことがあったからだ。アルタフィからの電話を喜ぶエレナに、アルタフィはデリケートな内容だと断って尋ねた。


「以前にお子さんが出来なかったというお話をされてましたよね」

「そうね、努力はしたんだけれど」

「単刀直入な質問で申し訳ないのですが……、もしかしてルイスさんとドルメンに行って『受胎の儀式』をされましたか?」

 エレナは長いこと沈黙し、アルタフィはエレナが電話を切ってしまうかと思った。

「そうね……、正直に答えると儀式をしたわ。どうしてわかったの?」

「何が起きたか教えていただけますか?」

「恥ずかしいわ……。こういうことは話したことがないから。覚えてはいるけれど、話すのはちょっと……」

「お願いします」

「ルイスは私をドルメンに連れて行ったの。必ず妊娠するからって。私はまるっきり信じていなかったのだけれど、子供がどうしても欲しかったから、なるようになれと思って付いていったの」

「それで……?」

「ドルメンに行って、予想を裏切って妊娠したのよ。残念ながら何週間かで流産してしまって、鬱になってしまったのだけれど」

「妊娠したんですね?」

「そうよ」

「どこのドルメンに行ったんですか?」

「エル ガストルの近くの……」

「エル ギガンテですか?」

「そうよ、どうして知っているの?」

「ルイスさんにエル ギガンテの話をしたのは私の父だと思います。私の両親もそのドルメンに行って、母が妊娠したのです。そんな話をするからには、二人はかなり親密だったのではないでしょうか」

「ルイスは誰から聞いたとは絶対に言わなかったの。そうだったの……。あなたのお母さんは、無事に妊娠したのね。私ときたら子供一人生むこともできずに……」

 エレナは泣き出した。

「そんなことを言わないでください。あなたは素敵な女性です。今は、ルイスさんを殺した犯人を見つけるために強くならなくては」

「そうね……、あの人はもう戻らないし、子供もいないけれど……」

「それでも、私たちにはやり遂げなければならないことがあります。正直に話してくださってありがとうございます。これで手がかりが出来ました。ちなみにドルメンに行った年はわかりますか?」

「忘れるわけがないわ。一九八六年よ。まだグラナダに住んでいて、ルイスがドルメン巡りを始めた頃だわ」

「私が生まれた翌年ですね……。私の父は、お二人の子供が出来ないという苦しみがわかったので、手助けしたかったのだと思います。最後に、ドルメンにはお二人だけで行かれたのですか? もしかして、女性が付き添っていたのではないでしょうか」

「そう、黒い服を着た女性が一緒で、私たちを待っていたわ。最初は怖かったけど、信頼できる人だとわかった。トランス状態になって、何かつぶやきながら儀式を行って……、儀式を終えると、私たちに『全ては上手く行ったので、二人の儀式を行うように』と言ったの」

「それに従ったのですか?」

「ええ。私は毛布を持っていったので……二人でその上で……」

「わかりました。その女性の名前は覚えていますか?」

「名前は言わなかったわ。私も聞かなかった。ちょっと怖くて……」

「魔女みたいだった?」

「そんな感じね」

「その女性について、ほかに何か覚えていることは?」

「そうねえ……。あ、彼女を家まで送っていったわ」

「どこに住んでいたんですか?」

「ロンダよ。古い城壁の近く」

 アルタフィの長い沈黙を受けて、エレナは尋ねた。

「その人を知っているの?」

「ええ。私の祖母だと思います」

「お祖母ばあさん?」

「はい、この話はまた今度に。やっとトンネルの向こうに明かりが見えて来た気がします」


 *  *  *


 アルタフィは一九八五年生まれだったんですね! 本が出版されたのが二○十六年だったので、アルタフィは三十一歳だ! がっつりアラサー! 


(初掲: 2024 年 10 月 15 日)




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