ドルメン 第 24 話 アルタフィの長過ぎる一日が今度こそ本当に終わる
「バカバカしい! テレパシーや精神波なんかあるもんか。純粋に単純な手品のトリックだよ」
「キム、そうじゃないって知ってるだろ」
ボイルがとりなすように言った。
「手品のトリックなんかじゃないよ……」
フーディンはボイルが言い終わらないうちに、アルタフィに向かって言った。
「アルタフィ、こいつが君にしたことは単に手品だって証明してやるよ。新しい紙ナフキンを持って、トイレに行って何か書いてきな。言葉でも絵でも、頭に浮かんだことを。それをカバンに入れて、しっかり口を閉じて、テーブルに戻ってくるんだ。絶対、誰にも見られないようにして」
好奇心を刺激され、アルタフィはキムに言われたとおりにした。それでもボイルがどうやってドルメンの絵を言い当てたのか、見当もつかなかった。洗面所に行って一人になると、ハンド ドライヤーの上にナフキンを置いて、ほとんど無意識に自分で何をしているかも考えないまま単純な絵を描いた。ナフキンを折ってバッグに入れた。ファスナーを閉じて皆のいるところに、
「オーケー、アルタフィ」キムは今は
「誰にも見られなかったかい?」
「と、思うわ」
「それじゃ始めよう。簡単なトリックで君の秘密を覗いてみよう。何を描くかじっくり考えたかい?」
「いいえ、まったく」
「最初に頭に浮かんだことは?」
「そこにあるとおりよ」
「興味深いね。潜在意識が先行したわけだ。俺は君が何を描くかを知っていた。単純な絵だ。様々な図形。違うかい?」
「そうよ……」
アルタフィは再び驚いた。
「そのとおりよ。確かに何も考えずに……」
「今目の前で、俺が思ったとおりの絵を君に描かせることもできるんだけど、それだと簡単過ぎる。俺は、敬愛するフーディニのような手品の高みに至りたい。そして、それを少し難しくする。周りを見渡して欲しい。何か注意を引いたものがある?」
「わからないわ……」
アルタフィは周りをぐるりと見渡しながら考えた。
「あのカーネーションの鉢植えかしら……」
「どれ? あれかい?」
フーディンは花鉢を指さしながら聞いた。
「ええ」
「オーケー。鉢植えに近づいて。何か見つかるかもしれない」
アルタフィは問題の鉢植えに近づくために席を立った。
(あそこに何があるっていうの? 枯れそうになっているカーネーション?)
アルタフィは緊張しながら、不思議な感覚に震えた。誰か力のある者が自分を操っている。アルタフィは、くだらないトリックに自らを差し出したことを後悔していた。
そしてそのとき突然祖母のことを思い出した。祖母は何か仄暗いことを警告しようとしているようだった。アルタフィは首を振って、花鉢に近づいた。
鉢の置いてある地面の上に折りたたんだ紙を見つけた時、アルタフィはぞっとした。
(これは何を意味するの? 誰がこの紙ナフキンをここへ置いたの? わたしがたまたま選んだこの場所に?)
アルタフィが二本の指でナフキンをつまむと、電気ショックのようなものを感じた。その考えがアルタフィを無力にした。首を振って、正気を取り戻そうとした。単なる偶然に違いない……。
キムは、ビールをすする合間にいわくありげな笑顔を浮かべて言った。
「それじゃあ、鉢植えで見つけた紙を開けてみて。もし、君が描いた絵に似た絵が出てきたら、俺が用意した簡単なトリックが上手く行ったってことだ」
「開けてみて!」とマルタが手を叩いた。アルタフィは勇気を振り絞って紙を開け始めた。 アルタフィは単純な冗談を期待した。単なる偶然を。紙を完全に広げ終わると……。
なんということだろう、あり得ない! 紙の上には、陶器のようなものの上を飛び回る蝶が描かれていたのだ。どっと汗が吹き出した。
(私が描いたものと一緒だ!)
「二つの紙を両方開いて置いてくれ」
キムが優しく言った。
「トリックが上手く行ったか見てみよう」
アルタフィは自動的に従って、広げた紙に目を落とした。絵は少し異なっていたが恐ろしいほど似ていた。
アルタフィが描いたナフキンには鉢が描かれ、花鉢に隠されていた紙ナフキンにはっきりとした鐘形の容器が描かれていた。そして、アルタフィの絵には三匹の蝶が描かれており、もう一方には四匹が描かれていた。 アルタフィの蝶は青のボールペンの線だけだったが、仕込まれていたナフキンには四匹の蝶が濃い黄色で描かれていた。
キムは決まり悪そうに言った。
「トリックはまあまあ上手く行ったけど、完璧じゃなかったな……。悪いね、ハズレにならないようにもう少し練習しなきゃな。俺は完璧主義者で、崇拝するフーディニの域に到達
軽いノリのキムの声が響いた。
「これ、どうやったの?」
アルタフィは、
「教えて、どうやったの? どうして鐘形土器なの? どうして四匹の蝶なの? なんで黄色なの?」
「落ち着けよ。言ったじゃないか、トリックは上手く行かなかったって。少し失敗したって、もう謝ったろう?」
アルタフィは、何が起きているかわからず座り込んだ。何か暗く重苦しいものが周りを包んでいた。
「お願いよ。どうやったのか教えてちょうだい。私にとっては大事なことなの」
「マジシャンはトリックを絶対教えないんだ。手品の第一規則だよ」
「これは……、普通の手品じゃないでしょ? ほかに何かあるのよね?」
「冗談はよしてくれ。ボイルの古典的なトリックじゃないんだからさ。
「
アルタフィは、
「でも、純粋にトリックだったら、どうして絵が違うの?」
「説明しただろう。間違いだよ。もう少し練習が必要なだけだ。どうして絵の違いがそんなに気にかかるんだい? 何か意味があるのかい?」
「そうよ、とても意味があるの。私にとっては、本当に……」
「蝶は昔から死者の
「知らなかったわ……」
「蝶を描いたって? 黄色の?
誰もが黙っていたが、アルタフィはこれ以上説明のつかない拷問に耐えきれなかった。
「ごめんなさい、もう帰るわ。気分が悪いの」
アルタフィは恐怖を感じ、急いで立ち上がった。絵が何を意味しているのかよく知っていた。
あの血塗られた巨石の儀式の生贄として、あと四人死ぬのだ。逆鐘形土器の数が減っていることに対する彼女の直感は当たっていたのだ。死のトリック。まだ土器は四つ残っている。苦悶に満ちた午後、紙ナフキンの中で飛び回っていた黄色の蝶一匹につき一つの土器。巨石文化の生贄はまだ続く。死の王国の使者である黄色の蝶はそう告げているのだ。打ち捨てられた死体のもう使われない蛹から逃げていく魂。
フーディンがアルタフィの腕をそっと掴んで言った。
「アルタフィ。君は特別な女性だ。
しかし、アルタフィは耳を貸さなかった。アルタフィは、透視や手品のゲームに巻き込まれたくはなかった。
「さようなら」
そう言ってアルタフィは、怒った足取りでバーを去った。心の深くに陰惨な嵐の予兆を感じながら。
* * *
いつの間にかサブ キャラに降格しているジョン ボイル。そして台頭するキム フーディン。となると、そもそもジョン ボイルを出す必要はあったんでしょうか。最初っからキムだけにしとけば良かったのでは? そして解呪はどうなった?
ますます迷走する、もとい、先が読めない『ドルメン』!
さ〜て、来週のドルメンは? アルタフィはまたカラスコ教授に誘われて、今度はフラフラとポルトガルまで付いて行ってしまいますよ〜。次回は『楽しいポルトガル旅行』、『カラスコ教授の隠された顔』、『不穏な夜』の三本です! 来週もまた見てくださいね〜! ンガンゴ。
(初掲: 2024 年 8 月 3 日)
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