ドルメン 第 18 話 アルタフィ、自説を公開する

 この翻訳をするために LingQ という語学学習サイトを使っています。

 このサイトからは毎晩「歯磨いたか? 勉強しろよ!」とメールが来るほか、様々な学習意欲を刺激するためのギミックが施されています。そのうちの一つが真面目にコツコツ勉強してるとポイントが貯まるシステムなのですが、この基準がめっちゃ厳しい! 私は一番ゆる〜い(そう web サイトに表示される)設定にしてあるのですが、この設定でも一日でも休んだり、新しい単語を学習しないとあっという間にポイントが減ってしまいます。いや、一日くらい普通に休むよね?

 そもそもポイントが貯まると何ができるのかとかよくわかっていないので、ありがたみもない……。それより「ベイベー、昨日は会えなくて淋しかった。今日は web サイトで待ってるよ♡」とかミッチーが言ってくれるメールを送っていただきたい。


 *  *  *


 ホテルに着くと、アルタフィたちはカフェテリアに席を取った。マケダ警部を待つ間、カラスコに電話があった。

「学部からだ」

 カラスコは話をするために少し離れた。

 男の赤ん坊がアルタフィたちの横で声を上げて泣いていた。赤ん坊は親戚でもなければ我慢出来ないほど泣き叫び、その声が今の重苦しい緊張に加わった。

(早く彼の母親が母乳でもミルクでもあげてくれますように! 彼の父親が散歩に連れ出してくれるか、祖父があやしてくれるか、兄弟がおもちゃで遊んであげるか、なんでもいいから黙らせて自分がカフェの外に行けばいいのでは?!)

 アルタフィは彼らに一言いってやろうと思った瞬間、自分の身勝手さに恥ずかしくなった。先史時代だったら、一族の子供は互いに助け合って育てただろう。

(私の母性はどうなってしまったんだろう母性 関係なくない?

 アルタフィは、母性に至る再生産のための女性的な衝動を完全に欠いていた。妊娠や出産、授乳などのすべての動物的な機能とそれにまつわる原始的な分泌腺や体液や臓器を恐怖していた。アルタフィは、哺乳動物の雌以上のものなのだ……、そうでありたいと思っていた。もし、奥底でアルタフィが原始的な部族の動物的な娘――一族の肉片程度のもの――だったら病んでますなあ まあこんな抱えてたら苦しいよね

 カラスコが戻ってきた。

「研究室からの結果が届いたらしい。熱ルミネセンスと粒度解析によると、バレンシアの犯行現場にあった逆鐘形土器は約四千五百年前の粘土で焼かれていたらしい。そしてバレンシナで見つかった他の土器から採取した標本と似ていたそうだ」

「博物館から土器が盗まれたという話は聞かないから、殺人者たちは、まだ知られていない遺跡から土器を盗んだか、それを盗んだ者たちから買ったということですね」

 アルタフィは容易く推論した。

「または、何十年もの間隠されたままだった私的なコレクションから出たとも考えられる。警察は、今日アントニオの遺体と一緒にあった土器の解析も僕たちに依頼するだろう……」

「それもバレンシナのまだ知られていない遺跡から出土された可能性がありますよね」

「その遺跡がどこかはわからないが、犯罪者たちがもうこれ以上持っていないことを祈ろう」

「もし残っていたら、あの悪魔たちがまた儀式に使おうとするでしょうね」

 そこにマケダ警部がぐったりした様子で来た。カラスコは土器の調査結果を報告したが、マケダ警部は落ち込んだままだった。

「もう終わりだ」

 マケダ警部が言った。

「私は調査の主任から外されたんだ。代わりにマドリッドのお偉いさんが指揮を取る。事件は既に全国的なスキャンダルだ。すぐにほかの国にも知れ渡る。上が事件を手元に置きたいのはわかるが、現場の私が手を出せないとはなんだ。これはある意味私の事件なのに。

「事件そのものから外されるかもしれんな。ここまで調べを進めてきたら、後は用無しということだ。少なくともセビーリャで起きたことの調査にだけは関わっていたいよ。今日はアンテケラの奴らと情報を共有して、これまでの事件とのつなぎをつけて欲しいんだと」

 警部はグラスから水を一気に飲んで、アルタフィたちを無表情に見つめた。

「君たちの協力のことは彼らに話しておいた。顔を合わせるのに興味津々だったよ。二十分後にここに来ると言っていた。彼らの到着を待とう」

「マケダ警部――警部だったら必ず犯人を捕まえたと思います」

 アルタフィは言った。

「それはわからんな。実のところ、我々は何の解決のヒントも掴んでおらんのだ。明らかに意図不明の先史時代の儀式を模した一連の犯罪……」

 アルタフィはここで大胆に自分の推論を披露した。

「事件は七つの土器から始まって、回を重ねるごとに一つずつ減っています。バレンシナでは『七』という数字に意味があるかどうかが疑問でした。それに対して、私は次のように考えました。

「『七』は太古の昔から聖なる数字と考えられています。一週間が七日あるのは偶然ではありません。月の各周期も七日かかります月相を二十八日周期とする占星術があるらしい。昔から、『七』は統治者によって魔術的な数字として使われてきたのです。『創世記』では、神は七日で世界を作り六日で作って七日目はお休みだったのでは、『七』は大罪の数でもあります。人類の創始以来、『七』は神秘の数字でした。そして巨石文化の担い手たちも彼らの儀式や典礼にそれを取り入れていました」

「確かに『七』には、神秘的または神聖だという意味があり得る……」

「そうかも知れない」とカラスコが遮った。「しかし、銅石器時代の土器が本物であること、そして両方の犯罪に使われた土器の土が同じであることをまず確認しなくては」

「それは確かに重要だな。もしすべての土器が同じ遺跡から出土されたものだとしたら……」

「そうだ、我々が知らない遺跡が一つあって、そこから来たことになる」

「少しずつだが、わかってきているんだな。私からも新しい情報を伝えなくてはならん」

「何ですか?」

 アルタフィたちは同時に叫んだ。


 *  *  *


 暴走するアルタフィ。最初の赤ちゃんのシーンは、不穏な空気を高めるためとアルタフィの「女に生まれつちまつた悲しみに」の演出だと思うのですが、なんとなくキライです……。

 月の周期については最初わかりませんでした。月の公転周期は二十七日、月の満ち欠けは二十九日なので、何の周期が七日?と思ったんですが二十八日換算の占星術だそうです。

 それから、なぜ七が神聖な数字なのかということに系統だった研究は無いようなのですが、室井和夫さんという数学者の方が、シュメール文化では六十進法を使っていて、六十進法では七の除算が難しかったからではないかという説を挙げています。シュメールのギルガメシュ神話や民話には、七人の神、七頭の羊、七つの山など、七というモチーフが多く用いられていて、それが後のバビロニア文化やアッカド文化に引き継がれていったのだそうです。

 ギルガメシュ神話の洪水の話がノアの方舟の原典ではないかという考えに則れば、七がキリスト教を通じてヨーロッパ文化で重要な数字になったのは自然と考えられるのではないかなと思いました。


参考文献

https://arxiv.org/pdf/1407.6246



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