ドルメン 第 17 話 第三の事件
週二回の更新となるはずが…… 😞
結構な量を訳せるようになってきたのですが、今度はまとめるのが難しい……。さっと読める長さにしたいのですが、後のヒントとかをうっかり省略したくもない。翻訳調の文章を校正するのも結構時間がかかります(その割にまだまだ翻訳調ですが)。
苦肉の策で、ツッコミはルビに入れました 😅 ルビに顔文字も入れられるとは知らなんだ。
* * *
翌日、アルタフィが目を覚ますと、母が朝食を用意していた。コーヒーとトーストの香りが漂い、母は六十年代の古い歌を鼻歌で歌っていた。暖かい家の雰囲気がアルタフィの気分を良くした。しかし、その短い幸せは携帯電話の呼び出し音で打ち切られた。こんな時間の電話は良くないことに決まっている。
「マケダ警部から連絡があったんだ」
マヌエル カラスコの慌てた声が聞こえた。
「アンテケラのドルメンで何かひどいことが起きたらしい。また考古学見地からの私の所見が欲しいと言われた」
「……別の殺人ですか?」
アルタフィは震えながら聞いた。
「そのようだ。詳しいことはわからない。一緒に
「わかりました……」
アルタフィは凍りついたように動くことができず、トーストは焦げ始めていた。
「どうかしたの、アルタフィ?」
母はトースターからパンを取り出しながら、心配そうにアルタフィに尋ねた。
「アンテケラのドルメンでひどいことが起きたらしいの」
「ねえ、もうこのお仕事はやめたら? 犯罪や怖いことに会ってばかりじゃないの。ドルメンは恐怖を与えるわ……。私たちはその力に気が付いていな
「ドルメンの力の何を知っているの?」
母の言葉に驚いて、アルタフィは直感的に聞いた。
「何も……、何も
「今辞めるわけにはいかないわ。恐怖は乗り越えれば消え
「アルタフィ……、事件現場で警察と何をしているの? どうしてあなたが行かなきゃい
「発掘現場の監督のカラスコ教授が警部の一人と友達なの。警部が現場での考古学的な所見を聞きたがっているのよ」
「警察は彼を呼んでるのよね? どうしてあなたが一緒なの?」
「カラスコ教授が私に一緒に来るように頼むから」
「そう。あなたはそれが普通
「もちろん――」
そうは言ったが、アルタフィは答えるまでに少し躊躇した。
「どうして変だと思うの?」
「どう考えて
「行くのは私の義務だと思う」
「……だったら、あなたが一番いいと思うようにしなさい。でも、言っておくけれど、あの教授と年中一緒にいるのは頂けないわ。何を考えているかわかったもんじゃないでしょう」
「お母さん!」
コーヒーを終わらせる間もなく、アルタフィは階下に降りた。カラスコはいつでも時間に正確だった。実際、彼は
道中、カラスコとはほぼ話さなかった。カラスコの運転中、アルタフィはこっそり彼を観察した。額の髪は薄くなり始めていたが、まだしっかりとそこにあった。
彼はアルタフィをなぜ誘うのか? コンパニオン レディとして? 勘の鋭い調査員? 良からぬ衝動の獲物?
それがどうしたと言うのだろう。教授がアルタフィを連れて行くことが、不自然で納得のいかないものだとわかってはいたが、アルタフィは疑念を心の内に
「ついて来てくれてありがとう」
アルタフィの疑念を読み取ったようにカラスコは言った。
「なんとなく気味が悪いんだ。自分の世界が壊れていく気がして。考古学の仕事がずっと好きだったけれど、今は大嫌いだ。アンテケラで何を見なきゃいけないかと思うと恐ろしいよ」
アンテケラはスペインの巨石文化のゆりかごだ。メンガとビエラのドルメンを入口として、数キロ先にあるロメラルのドルメンから構成されている。構造物があまりに並外れていたのに驚いたローマ人は、その土地を「古代の町」つまり
アルタフィはアントニオ パレデスとの午前中の約束をキャンセルするために彼に何度か電話をしたが、電源を切っているようだった。代わりに自分の不在を説明するメッセージを送った。アントニオがロベルトの書類を持っていることはカラスコに言わなかった。
シスネロス教授にも電話をして、二回目に電話が通じた。
「シスネロス教授、今日はお会いできません」
「何かあったのかい?」
「また殺人がありました。今回はアンテケラのドルメンです」
「なんということだ……。何が起きているのかまったくわからんな。アルタフィ、頼むから気をつけてくれよ」
アルタフィは翌日に教授を尋ねることを約束した。カラスコを横目で見たが、彼は真っすぐで単調な高速道路のどこかをじっと見つめていた。
アルタフィたちは高速道路から降りると工業地帯を過ぎて、ロータリーの近くで車を停め、アンテケラの中心街へと続く通りを歩き始めた。右手にある放棄されたオリーブの林には、様々な警察車両や救急車が停まっていた。マケダ警部はそこでアルタフィたちを待っていた。
「メンガのドルメンはもう少し先だが……」とカラスコは驚いていた。
「現場はメンガそのものではなく、マリマチョと呼ばれる近くの丘なんだ。私と一緒に来てくれ。殺された男性の身元はまだわからんのだ」
「前の二件と同じように殺されたのか?」
「同じ儀式だ。同じように損壊されて、同様の逆鐘形土器に齧られた内臓が入っとった」
「なんて恐ろしい……」
「さあ、ここから丘の高いところまで登らなくてはならない」
二つのドルメンの保護区に隣接する丘には、手入れされていない古いオリーブ畑が残されていた。マケダ警部に従って丘の頂上まできつい傾斜を登っていくと、頂上からはドルメン保護区と、かつての城塞を頂くアンテケラの町並みがよく見えた。その反対を向くと、厳かで儀式張ったペニャ デ エナモラドスがそびえ立っていた。
警備用のテープをくぐり抜けると、胸部の開かれた血まみれの男性の遺体が地面に横たわっていた。アルタフィたちから見える距離では、彼の特徴はよくわからなかった。アルタフィは早まる鼓動とともに遺体に近づきながら、遺体が少なくとも知人でないことを強く祈った。前を行ったり来たりする複数の警察官を除けながら進むと、突然遺体の前に出た。
ひどく苦悩した笑いのような口を開けて彼の顔は歪んでおり、眼球のない目でアルタフィを見つめた。彼が誰だかわからなかった。もう少し近づいて、気絶しそうになった。痛みの限界まで拷問された誰かはアルタフィの知る人物だった。実際、アルタフィは彼にセビーリャで会う約束をしていたのだ。
(なんてこと……)
アルタフィはここに来る途中で、なぜ繋がらないのかわからないまま、彼にかけた電話を思い出した。冒涜するように無駄に鳴り続ける死者の電話の呼び出し音の運命的な響きを。
マケダ警部は、アルタフィの脚が震えていることに気づくとアルタフィを支えてくれた。カラスコもすぐ
「なんてことだ! アントニオじゃないか!」
「彼を知っていたんだね。誰だったんだ?」
マケダ警部は友人に言った。
「アントニオ パレデスだ。うちの学部の准教授だ」
「この新たな犠牲者もパストラのドルメンの発掘チームに参加してたのか?」
「いや」
カラスコは答えた。
「ただ、彼も先史時代が専門で、前回殺されたロベルトの良い友人だった」
「殺されているのは君の周りの誰かだな……。さて、現場を確認してくれ」
「そんな気力があるかな……」
「一緒に来てくれ」
その瞬間、アントニオの遺体にカバーがかけられた。不気味な虫の雲が彼の周りで踊った。アルタフィはすぐに後ずさった。たかっている虫が自分の肌に触れるのさえ我慢できなかった。
アルタフィは現場を見た。これまでと同じように逆鐘形土器が置いてあった。血だらけの内臓が溢れていて、呪われた蝿が飛んでいた。抑えきれずにアルタフィは吐いた。横を向く間も無かった。
「来なさい。ここから出よう」
マケダ警部の腕につかまってアルタフィは数メートル移動した。恐怖と同じくらい羞恥も感じながら、気を取り直そうとした。
「すみません……。止められなくて」
「大丈夫ですよ。よくあることですから。経験を積んだ警察官だってありますよ」
「今回は五つでしたね」
アルタフィはほぼ自動的に言った。
「五つ?」
「逆鐘形土器です。儀式の度に一つずつ減ってるんだわ……」
「そのとおりです。アガサ クリスティの『そして誰もいなくなった』のように毎回一つずつ減っている」
「特定の人たちが殺されているんだと思いますか?」
「わかりませんな。そういった仮説も考えられるし、逆もまた考えられます。いつだって物事は見えない部分があるものです」
「今回はドルメンの中ではなかったわ」
「メンガの保護区は夜間も監視の目がありますからな。誰も近づけなかったんでしょう」
「だからここへ来た……」
「そうです。このマリマチョの丘は巨石時代の共同墓地らしいのです。アンダルシア地域政府はここを収用して古墳群の一部に組み込みたがっています……」
アルタフィたちは遺体の身元確認を急いで終え、古臭くて汚れた書類に署名をしなければならなかった。
「私はもう少しここに残らねばなりません」とマケダ警部は言った。「丘の下には二人でお戻りください。この後すぐ、また三人で集まってこの事件について話し合いたいと思っとるんです。疑惑だらけでうまく考えられんのですよ。マラガ部隊はこの事件は彼らの管轄だと言い、マドリッドの奴らは世間の反響を心配しとるんですわ」
「ここへ来る途中で『
「わかりました。すぐに伺います」
* * *
寝ている人の横顔に見えるペニャ デ エナモラドスの写真です ↓
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/38/Pe%C3%B1a_de_los_Enamorados_Antequera.jpg
初掲: 2024 年 6 月 14 日
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