ドルメン 第 14 話 ロベルトのお葬式

  今週からお話の圧縮率を高めたんですが、それでも大分長くなってしまうことがわかりました。なので、今回から週二回の更新にしたいと思います。

 次に(読者の興味を引くために🤪)内容のわかるタイトルを付けるようにしました。これまでの題名は『帰ってきたドルメン』以降を変更しています。

 最後に、第 12 話で出てきた「呪い」と「術師」という言葉をそれぞれ「邪視」と「呪術師」に変更したいと思います。これらは木下望太郎さんが使っていた用語で、いいなと思ったので取り入れることにしました。第 12 話は変更済みです。木下さん、ありがとうございました!


 *  *  *


 ロベルト サウサの葬儀には多くの人々が出席していた。セビーリャでは知られた一族であるサウサ家のために学部の同僚や学生が集まっていたが、中には興味本位の者やこうるさいメディア関係の者も混じっていた。

 アルタフィは人の流れに身を任せて、マヌエル カラスコとアルフレド グティエレスと共に隣り合うサン フェルディナンド墓地へと向かった。アルフレド グティエレスもまた、博士課程に在籍するバレンシナの発掘チームのメンバーの一人である(注 1)。アルタフィは、ロベルトに近しい人々への配慮として少し離れたところから、距離感を保ちながらサウサ家のチャペル(注 2)での埋葬を見守っていた。そして、ほんの二日ほど前に激しく乱暴な言葉でアルタフィを侮辱し、激昂させたあの苦しい一時いっときのことを考えていた。心から彼を許しながら、祈りの言葉をつぶやいた。彼が永遠の安らぎを見つけられますようにと(注 3)。

 そのとき、アルタフィは強い視線を感じた。マケダ警部だった。弔問客に紛れてアルタフィを伺うように見ていた。優秀な警察官らしく、弔問客の泣き顔の後ろに容疑者が隠れているかも知れないと考えたのだろう。誰であれ疑うのが彼の仕事だ。

「君がアルタフィかい?」(注 4)

 ふいに声をかけられ、そちらを見やると、なんとなく見たことのある丸い顔が目に入った。

 その瞬間、マヌエル カラスコが振り返った(注 4)。彼はカラスコに挨拶をした。

「やあ、マノロ。久しぶりだね。なんて不幸なことだ」

「こんなところで再会するなんてな。少なめに言ったって不運なことだ。恐ろしいことだよ。アルタフィのことを知ってるのかい?」(注 4)

「すこし前に学部で歩いてるところを見ただけだ」とその弔問客は答え、アルタフィに自己紹介した。

「アントニオ パレデスだ(注 5)。ロベルトの同僚なんだ。いや、『だった』と言うべきかな。本当にショックなことだ」

「皆、同じ気持ちです」とアルタフィは答えた。

「学部でまた会おう。会えて良かった」

 彼は、他の人々に挨拶するために歩いていった。パレデスはアルフレド グティエレスと軽く握手をしただけだった。アルタフィは、同じ部署でよく顔を合わせているはずの二人のよそよそしさに驚いた。多分二人の仲は良くないのだろう。ロベルトの葬儀の間でさえ敵意を抑える様子はないようだった。

 灰色の、密度の濃い不条理な二週間が過ぎた。発掘は一時停止となり、疑心暗鬼は深まる一方だった。アルタフィは二回警察に出頭させられ、マケダ警部の厳格な形式に則った質問に一通り答えさせられた。

「ロベルトが殺された日の夕方、仕事が終わった後にあなたロベルトと残ってたらしいね? みんな証言しているよ」

「はい、それは間違いありません。私が帰るときに、彼はもう少し残ると言っていました」

「そのときに何かおかしなことは言っていなかったかい?」

「そうですね、あの……」

 アルタフィは少し迷った。

「実をいうとおかしなことがあったんです。突然私のことを侮辱して……。

「私のことを、カラスコ教授に色目を使って学部に入り込もうとしてる成り上がり女だって、突然言いに来ました。とても傷付いて、泣きながら帰りました。彼はそのまま残りました」

「どうして前回にこの話をしなかったのかね?」

「事件には関係ないと思ったんです。個人的なことだし、私と彼以外に影響しないことでしょう」

「それは誤った考えですな。このことから推論できるのはまず、あの午後ロベルトが神経質になっていて不機嫌だったということだ」

「何かを恐れていたということですか?」

「そうかもしれませんな。

「次に推論できるのは、あなたが容疑者かもしれないということです。彼と激しい口論をしたばかりで、彼に強い殺意を抱いたかもしれない」

「ご冗談でしょう」

「まあ、あなたのアリバイは証明されていて、二つの事件には関われない(注 6)ことはわかっていますがね」

「……容疑者への当たりはついているんでしょうか?」

 言い争いをしたことからの自分への疑いは晴れないとわかっていても、アルタフィは尋ねた。

「ここでは質問をするのは我々です」

 マケダ警部はぶっきらぼうに話を打ち切った。しかし、雰囲気を少し和らげて続けた。

「我々は今までにないほど複雑な犯罪に向き合っているのです。すべての仮説を考えるようにしています」


 *  *  *


(注 1)アルフレド グティエレスもまた、博士課程に在籍するバレンシナの発掘チームのメンバーの一人である

 登場人物が増えました。


(注 2)サウサ家のチャペル

 スペインの墓地の中には、畳三畳分くらいの石造りのミニ チャペルが建っていることがあります。原文は神殿パンテオンとなっていて、実際ローマ神殿みたいなデザインのものもあります。日本語だとお堂とか廟とかってなるんだと思いますが、ここではチャペルとしました。

 普通、このチャペルの内部はロッカーのようになっていて、そこに遺灰を収めるようになっています。このエピソードでは省略していますが、お葬式の終わりの方でロベルトの棺を複数の男性が肩に乗せて運んでいく記述と、お墓の上に大理石を被せる記述があるんですね。ということは、サウサ家のチャペルにはロッカー式ではなくて、地面に棺を収めるタイプのお墓があるんだと思うんです。ってでも、チャペルそんなでかいの?って感じですよね? サウサ家はとんでもないお金持ちのようです。


(注 3)彼が永遠の安らぎを見つけられますようにと

 ロベルトは初登場のその日に突然モブから脇役に昇格し、その晩に殺害されてしまっています。そして葬式でさえも最後の思い出が悪口雑言って、あまりに可哀そう……。本当に安らいでいただきたいです 😢


(注 4)「君がアルタフィかい?」……マヌエル カラスコが振り返った。……「アルタフィのことを知っているのかい?」

 カラスコ教授、チェック厳しいです。アルタフィにその気は無くても、カラスコ教授はアルタフィを結構気にしていますねえ。ロベルト サウサの読みは当たっていたのかも……。


(注 5)アントニオ パレデスだ。

 また新人物登場です。段々人が増えて誰が誰だかわからなくなってきました。


(注 6)あなたのアリバイは証明されていて、二つの事件には関われない

 ルイス ヘストソのときは、マリアの家に泊まっていたのでアリバイはあると思うんですが、ロベルト サウサのときは、アルタフィは家に帰ってプンプン怒ってただけなのでそれはアリバイになるんでしょうかね。どう考えても女性が一人で実行できるものではない犯罪ですが、教唆もできるから「二つの事件には関われない」というのは早急ではないですかね、マケダ警部。いや、それともこれはアルタフィを泳がせるための方便か……。


 *  *  *


「我々は今までにないほど複雑な犯罪に向き合っているのですキリッ」

 複雑……。複雑……?


 考えたら、めっちゃめちゃ証拠残ってそうですよね? だって犯人は複数人で全員裸ですよね? どこかで着替えなきゃいけないし、現場まで徒歩で行かないだろうから、何台かの自動車に分乗したりしてそうですよね。そしたら、車まで血の足跡とか残ってないですかね?


 あー、でも全員家から裸で来てたら嫌だな……。

「マケダ警部! 高速道路の監視カメラに、裸の男性グループが乗っているバンが写っていました!」


 やっぱりこれは推理小説じゃないんだな。



 初掲 2024 年 6 月 6 日


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