ドルメン 第 8 話 モブかと思っていたロベルト突然キレる
前回のエピソードに、チョコレートストリートさんが「五千年前の完全形の貴重な盃を置き去りにしてまで、このクレイジーな集団は殺人より儀式が目的みたいですね」というコメントを下さったのですが、確かにそんな貴重な杯を残していくってちょっと不思議ですよね。そもそもアルタフィが完全な形で見つかったものは無いって言ってるのに、突然七つも出てくるのも不思議です。ちょっと「火曜サスペンス劇場」的なチープさを感じます。
どちらかといえば、最近作られたものだけど、土の産地はパストラのドルメンで見つかった土器と同じだとか、作り方は昔どおりの方法で作られたらしい、とかの方がもっともらしいかな、と思ったりしました。
それから、杯の訳をずっとどうしようかなと思ってそのままにしておいたのですが、大きさの印象とかあるので再度調べてみました。
原文は
大きさは高さ 15 cm 前後、直径は 13 cm 前後が多いようです。デザインとしては日本の縄文式土器に近かったので、縄文式土器で似たような形をなんと呼んでいるか調べたところ、「深鉢」と呼んでいるようでした。
コトバンクの説明にあった「倒鐘形の土器」という言葉を取り入れて、以降は「倒鐘形土器」または「倒鐘形の深鉢」と呼びたいと思います。
それでは、今週のドルメンです。↓
* * *
昼食を終え、暑い中を発掘作業に戻った。布で作った日除けの下、発掘品の記録や整理をする。アルタフィは地図や野外ノート、記録と発掘品リストに囲まれた考古学の世界が好きだった。こうして先史時代の建造物の秘密を紐解いていくのだ。
アルタフィはドルメンを振り返った。しかし、入口の上部に
その瞬間、あの、黄色い蝶がアルタフィの視界に入った。アルタフィは戦慄しながら、隣のドルメンへと飛んでいく蝶を見送った。そして祖母の言葉を思い出していた。
「黄色いチョウチョを見たら、死者のために祈りなさい。死の国に新たに行く人がいるのだから」(注 3)
アルタフィは強烈な恐怖を感じなから、蝶のことは迷信だと自分に言い聞かせた。
「アルタフィ、どうした?」
サウサが声をかけた。
「幽霊でも見たような顔をしてるよ」
「なんでもないわ」
カラスコの指示により本日の作業は終わることになった。参加者たちは、地図や資材をまとめ始めた。アルタフィは、発掘現場のすぐ近くにあって、自分を心地よく迎え入れてくれ、冷たいプールのある過ごしやすいマリアの家に滞在できないことを残念に思った(注 4)。
そこにカラスコがやってきた。アルタフィに今日の進捗に満足しているかや、発掘の楽しさについて話しかける。
「ドルメンはとても魅力的だし、ミステリアスです」と答えるアルタフィに、カラスコは「ミステリアス! よく言った。ついておいで!」と言うとドルメンの方向に歩き出した(注 5)。鉄製のドア(注 6)の嵌ったドルメンの入口でカラスコはいたずらっぽく笑うと「何かあったときのためにドルメンの鍵を預かったんだ。静かな中でドルメンを見たくないかい? 巨大ドルメンの中に一人でいるなんてめったにできる体験じゃないだろう?」と言った。
そして、明かりも渡さずにアルタフィをドルメンの中に送り込み、戸を閉めてしまった。アルタフィは真っ暗な中でパニックを起こしそうになったが、なんとか落ち着き、携帯のライトを付けると
ようやくカラスコが戸を開けて「入るよ、そこで待っていてくれ」と言った。アルタフィは、それを遮って真っ先に外に飛び出した。
「その様子だと楽しくはなかったんだね」と言うカラスコに、「ちょっとめまいがしただけです。多分気温が急に変わったので」と答えるアルタフィ。心配気に手を伸ばしてきたカラスコにアルタフィは反射的に身を引いた。
「帰ります」
二人は黙って作業用の日除けがある場所へ戻ってきた。発掘作業員たちは片付けを終えてカラスコが戻るのを待っていた(注 7)。二人だけでいなくなっていたアルタフィとカラスコを、皆は訳知り顔で眺めていた。
「明日も大変な作業になるからよく休んで」と皆に言って、カラスコは自分の四駆に戻っていった。
アルタフィが自分のブリーフケースを取りに行くと、ロベルト サウサが一人残っていた。
「君がこの発掘プロジェクトに参加した理由がわかったよ。君は俺のポジションが欲しいんだろう」
「何を言っているの?」
「カラスコと君がどんなふうに見えるか知ってるかい? 二人だけの会議、二人だけの昼食、二人だけでベッドにも潜り込んでるかもしれないよな!」
「ちょっと! 言って良いことと悪いことがあるわ!」
「傷ついたふりなんかするなよ。俺にはよくわかってるぜ。二人だけでのロマンチックなドルメン訪問で決まりだな……」
アルタフィはサウサに口をきくのも嫌になり、背を向けて車の方へ歩き出した。しかし、サウサはまだアルタフィに怒鳴っている。
「行っちまえ! でも、お前の魂胆はわかってるからな!」(注 8)
アルタフィは怒りを抑えきれずに、怒鳴り返した。
「豚! ヘビ! クソ野郎! ヘンタイ!」(注 9)
「あばよ、ヤリマン!(注 10) 俺はお前なんかに追い出されないからな! 俺は将来を実績で決めるんだ、誘惑なんかじゃなくてな!」
サウサは背を向けると、ドルメンの方向へ地表を調べるかのように歩いていった(注 11)。
アルタフィは湯気が出るかと思うほど怒りを感じていたが、やはり彼に背を向けて歩き始めた。車に乗り込むと、侮辱されたことが痛みのように感じられて、怒りで涙が溢れてきた。人のことをヤリマン呼ばわりする自分は何者だと思っているんだろう? あんなクズ男と働くなんてごめんだ。生活していくために仕事と少しのお金は必要だが、あの悪魔の毒舌(注 12)を我慢するくらいなら辞めた方がマシだ。アルタフィは突然に決心した。明日、辞めてやる(注 13)。尊厳を保つためなら無職になることを選ぶ。
* * *
(注 1)開口部は先史時代の不穏な笑いのように見えた
振り返れば突然ホラー。発掘品のカタログ作ってただけなのに。
(注 2)秘密を紐解いていくのだ -> 秘密なんか見つけられやしない……。
変わり身の早さよ……。
(注 3)黄色いチョウチョを見たら、死者のために祈りなさい。死の国に新たに行く人がいるのだから
この設定まだ生きてたんかい! お話の一番最初でこれを言っていたアルタフィのお婆さんが亡くなってしまったんでした。口元に謎の笑みを浮かべたまま……。
これ、どうして黄色なんでしょう? 黄色の蝶なんて普通に飛んでません? それでビクビクしてたら、そっちの方が心臓に悪くて死にそうです。調べてみたら、黄色の蝶はスペインでは幸せの予兆らしいです。だからわざと黄色の蝶を不吉なものに仕立てたんでしょうか。
(注 4)マリアの家に滞在できないことを残念に思った
「え? どうして? なんかあったっけ?」と思ったら、ヘストソさんが殺された後、「殺人現場のこんな近くにはいられない」とアルタフィは自宅に帰ったんでしたっけ……。
(注 5)カラスコは「ついておいで!」と言うとドルメンの方向に歩き出した。
カラスコ教授は結構なおじさんだと思っていたんですけど、このはしゃぎっぷりを見ると案外若いんですかねえ。
(注 6)鉄製のドア
原文は
(注 7)発掘作業員たちは片付けを終えてカラスコが戻るのを待っていた
意外に組織ルールに忠実なスペイン人。イギリス人だったらとっとと帰ってます。
(注 8)ロベルト サウサの暴言の数々
当に「何を言っているの???」です。サウサ君が以前からアルタフィと知り合いだったのなら、アルタフィに好意を寄せていて、それが裏切られた(と思い込んだ)ので罵詈雑言を浴びせたとも考えられるのですが、特に二人の関係について匂わせるようなものはありませんでした。
人に会った初日でこれほどキレるのは、旦那の会社の人を招いたバーベキューで、旦那にすり寄る若い女性を見た嫉妬深い奥さんぐらいですよね。
と書いていて思いつきました (✧Д✧)キラーン サウサ君はカラスコ教授ラブなんですね! それが取られそうになったのでキレちゃったんですよ! なんと突然の萌展開!(諸説あります)
(注 9)「豚! ヘビ! クソ野郎! ヘンタイ!」
語彙! 子供か。
原文は「¡
カブロンの元々の意味はオスの山羊だそうです。罠に嵌めようとしたり、腹立たしいことをする人やことなどをカブロンと言うらしいです。カブロンを英語に訳すと bastard となったので「クソ野郎」にしました。普通にオスの山羊を指すときは
最後のエンフェルモは普通に病人のことを指します。悪口として使うときは「ヘンタイ!」という意味になるようです。
(注 10)あばよ、ヤリマン!
語彙が残念なことになってるのはサウサ君も一緒でした。
ヤリマンの原文は
(注 11)ドルメンの方向へ地表を調べるかのように歩いていった
フラグです。次の犠牲者はサウサ君と見た。
(注 12)あの悪魔の毒舌
原文は
(注 13)明日、辞めてやる
落ち着けアルタフィ。理不尽なこと言われて、まともに言い返しもせずに辞めちゃいかん。
今回はサウサ君の突然のキレっぷりにびっくりです。(`-')=❍☆)゚o゚)
そして、やけにカジュアルになって四駆を乗り回すカラスコ教授。これもロベルト サウサの愛を裏付ける演出でしょうか。(諸説……)
おかけで私の脳内では、ビジュアルが「C.S.I. マイアミ」の「火曜サスペンス劇場」が繰り広げられています。今回からは「C.S.I. ドルメン」と呼びたいと思います。
モブから主役に絡むサブ キャラに突如躍進したサウサ君ですが、フラグも立ってるっぽいので彼の今後が心配です。 手に汗握って来週を待て!
初掲 2024 年 4 月 24 日
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