告白
自分の気持ちに気付いてから、施設での日々は大きく変化した。
朝起きてから、今までは特に身なりに気を遣うこと無くジャージ姿のノーメイクで過ごしていたが、それがたまらなく恥ずかしくなった。
元々カンナとして我が家や家族同様に過ごしてきた場所や人たちなので、無頓着になっていたけど朝尾先生と顔を合わせることを思うと、今までのようには出来なかった。
そして、気がつくと先生を目で追いかけるようになったし、話し声も追いかけた。
それに気付く度、カンナの頃とやってることが変わらないな、と苦笑してしまうけどまた同じようにしてしまう。
後、先生の予定も気にするようになった。
これは、いつ気持ちを伝えようかと考えたからだが、これはもう決まった。
12月31日
年末年始にかけての児童養護施設は子供達の中でも親元に一時的に帰る子が多い関係で、意外と暇になる。
愛生院でも子供の数は半分以下になり、先生方も年末年始休みを取る人が多いけど、朝尾先生だけはずっと施設に居る事を、同じく年末年始もずっと施設にいた私は知っている。
それに・・・どうせなら先生と言う新たなパートナーを得て新しい年を心機一転迎えたい、と言う感傷的な物もあった。
そのため、今は先生の姿を追いながら(あの人が彼氏になったらどんなデートになるだろう)と言う甘い妄想に浸っていることが多い。
きっと、子供達の話ばかりしてそう。
でも、私ならそれに充分付き合えるから大丈夫だろう。
明後日が決行の日。
とっておきの服で気持ちを伝えるんだ。
母も新年になったら退院する。
あれから毎日お見舞いしているが、過去のことが嘘みたいにお互い良く話した。
そして「カンナ」と言う名前が元々は叶う愛の「叶愛」と冠の花の「冠花」で迷っていたけど、どちらの意味も持って欲しい、と言う意味でつけられた事を聞いた。
その時は思わず顔を覆い泣いてしまった。
自分の名前にも思いがこもってたんだ。
そんな母にも親孝行になる良い報告が出来る。
もう周囲からの羨望も華やかな光もいらない。
今度は3人で安心できる生活。愛情のある生活が欲しい。
そんな事を考えながら、子供達が公園で遊んでいるのを見守っていると、不意に後ろから杏奈の「山浅さん」と言う声が聞こえた。
振り向くと杏奈がニコニコと笑いながら手を振っている。
「お久しぶり、山浅さん」
「こんにちは。お久しぶり」
私も笑顔で頭を下げる。
そういえば杏奈の顔を見るのは、母の病室で朝尾先生と共に来たとき以来だった。
「元気そうだね!良かった。心配してたんだよ。顔見に行きたかったけど、仕事が忙しくて・・・」
「有り難う。お陰で母も大分調子が良くなって、多分年明けには退院できると思う。杏奈も大変だよね。介護の仕事って、年末年始も無いもんね」
「うん、そうなんだ。今の仕事は気に入ってるけど、休みが不定期なせいで若い子なんていっつも文句言ってる。分かってて来たんじゃないの!って思うけど、仕方ないよね」
そう言って口を尖らせている杏奈に、私はクスッと笑いが零れた。
「うん、仕方ないよ。分かってても理屈と感情は別だから」
「まあね。でも、私個人で言うなら不定期で希望して決めれる今の職場は気に入ってるんだけどね。お陰で彼とも予定を合わせやすいし」
それを聞いて私は思わず目を見開いた。
杏奈に彼氏が・・・
確かに美空になって初めて顔を見たとき、エラく垢抜けたと思ったがそういう事だったのか。「杏奈って彼氏いたんだ。どんな人?」
軽い気持ちで聞いた私は、その返答を聞いて思考が止まった。
恥ずかしそうに小さく笑った杏奈は、私の耳に口を近づけると小声で言った。
「これ絶対内緒ね。私、朝尾先生とお付き合いしてるの」
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