25 ポポフスキーの野望
「ポポフスキーは御存知ですよね?」
「ああ。知っとるともさ。あのマルコの野郎がおしめをしてる時から、知っとるさね」
「そのマルコ……マルコヴィチ・ポポフスキーと
リュドミラは苦虫を嚙み潰したような顔で吐き捨てるように言った。
ポポフスキー家にいい印象を抱いていない証左でもあった。
スヴェトラーナは言葉を続ける。
まるで舞台の上に立つ女優の如く、淡々と……。
「リューリク公国の王制が不安定なのは、ひとえにこの土地に王族や貴族が長らく、存在しなかったから。ところがそんな土地で形だけとはいえ、王や貴族が復古した」
「ああ。いやだねえ。口先だけの貴族ばっかりだよ」
「ええ。その通りですわ。かつて
ふぅと軽く息を吐いたスヴェトラーナは視線をふと窓の外へと向けた。
それまで晴れていた空に俄かに雲が湧き、今にも降り出しそうな陽気に変貌する。
「母が……ヴェロニカ公王が王位を継いだのはアナスタシアと同じ年の頃。思えば、前公王と王妃の不自然な死もまた、彼らによって、仕組まれたことだったのでしょう」
「いや、そんなまさかね」
さすがのリュドミラも同様を隠しきれず、アナスタシアは青褪めていた顔が血の気を失い、白くなっている。
それでもスヴェトラーナの口は止まらない。
「まだ、年端のいかない少女に過ぎなかったヴェロニカ公王に臣下と
ここでスヴェトラーナは一旦、言葉を切った。
三人の間で無言の会話が取り交わされる。
応じるようにスヴェトラーナは再び、言葉を紡ぐ。
「この時、プラトンが選ばれたのは彼が母と同じ黒い瞳を持つ者であったゆえ。血筋を残す為、致し方ない事情があったにせよ、絶対に選んではいけない男だったのです、
これまで感情をほとんど表さなかったスヴェトラーナが初めて、声を荒げた。
柔和なタヌキ顔の令嬢はそこにいない。
瞳に怒りの炎という名の輝きを宿した『魔王』がそこにいたのである。
「
ぎりぎりとスヴェトラーナがあまりに下唇を強く噛んだせいで血が滲んだ。
ジーナ・ポポフスキー。
議会を牛耳る親玉と目されていた当時の議長マルコヴィチ・ポポフスキーの娘である。
もっとも現在は王配プラトンの継室ジーナとしての名の方が遥かに知れ渡っている。
スヴェトラーナとアナスタシアから、見れば継母にあたる存在だがまともに言葉を交わしたことすら、ほぼなかった。
当時、ジーナには婚約者がいた。
マルコヴィチが後継者と見込んだボリスだった。
実直で温厚にして、誠実な人柄で知られており、目的の為に手段を選ばないマルコヴィチとは正反対と言ってもいい人物だったがなぜか、マルコヴィチを高く買っていた。
娘の婚約者として、婿養子にすることまで確約していたほどだ。
しかし、これには裏があった。
ボリスの優しい性格を利用するべく、ポポフスキー親娘とプラトンが結託し、仕組んだのである。
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