23 スヴェトラーナの告白①
「では……まず、簡単な質問をいいかしら?」
「何だい? 藪から棒に。まあ、いいわい。何か、理由がありそうだね? 言いな」
やれやれと言わんばかりに眉間に皺を寄せ、難渋を示したリュドミラだがすぐに察する。
この辺りは見た目こそ、若いものの年の功と言ったところだ。
「リュドミラ。現在、公国の正当な王位後継者は誰でしょう?」
「何だい、そりゃ! あたしを馬鹿にしとんのかい? そんなのこんくらいの子供でも知っとるよ」
呆れと怒りの入り混じった表情で苛立った声を上げたリュドミラだが、そこで「はて?」と気が付いた。
前公王ヴェロニカ・チェムノタリオトが崩御し、王位は空位となったままである。
正式に王家の血を引く、後継者が二人の公女しかいないのはリューリクの民であれば、誰でも知っている事実だった。
それを敢えて、第一王位継承者であるスヴェトラーナが質問した真意を読めず、リュドミラは心の内にあった怒りを鎮める。
「あんたがそう言うってことは何か、あるんだね」
「ええ。そうです」
アナスタシアは固唾を飲んで見守るしかない。
元より、彼女は姉に己の命も含めた全てを賭けただけの
勝負の鍵を握っているのはあくまでスヴェトラーナなのだ。
「それではどこから、お話ししましょう。某一派が議会で通そうとしている法案について? それともわたくしとアナスタシアに
そう言うと唇を僅かに歪め、口許に弧を描くスヴェトラーナの姿は十六歳とは思えない貫禄があった。
さしものリュドミラも言葉を失い、暫し沈黙が支配する。
「法案に関係があるのは複雑なあんたらの家に秘密がありそうだね。そっちから、話してごらんな」
やがて口を開いたリュドミラは何でも来いと言わんばかりに両手を天に向けるお手上げのジェスチャーをしてみせる。
それを見て、スヴェトラーナは少し、表情を和らげた。
「まずはわたくしと
「そいつは知ってるよ。顔しか取り柄の無いプラトンを知らんヤツはもぐりだよ」
「ふふっ。そういう言われ方をしているんですね、あの男」
「変な言い方だね。生物学上なんて言い方をするなんて、あんたも余程、腹に据えかねてるのは分かるさ。だけどさ。あんなのでも父親だろうよ?」
リュドミラの言葉には理ある。
スヴェトラーナもそれを理解していたが、それでも父親と呼びたくはない。
否。
呼ぶ訳にはいかないのだと彼女の心中で強く訴えかけるのは、非常なる『魔王』フォルカスではなく、心優しい乙女として生きてきたスヴェトラーナである。
「公王ヴェロニカ……わたくし達の母親を
スヴェトラーナの衝撃的な一言に再び、場を沈黙という名の空気が支配するのだった。
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