22 熊夫人のお茶会②

 スヴェトラーナは怪しまれない程度に言葉を選び、説明するつもりだったが相手もさる者。

 伊達に百年以上生きているではない。

 リュドミラはもはや半ばあやかしのような存在になっている。

 そう思わせるだけの風格を彼女が持っていたと言っても誰も疑わないだろう。

 元『魔王』が相手であろうとも一切、引かず媚びず、妥協を許さない姿勢はリュドミラが只者ではない証左でもある。


「仕方ありませんわ。それでは言って聞かせましょう」

「違うだろ? そこは知らざあ言って聞かせやしょうだよ。これだから、若いもんは駄目だねえ」

「はい?」

「二人とも何言ってるんです! あたしを置いてきぼりにしないで」

「そこなの?」

ナーシャアナスタシア、あんたって子は……」

「え? え?」


 妙なタイミングでアナスタシアが茶々を入れたせいで折角、進みかけていた話がまた、止まってしまった。

 二人から、恨みがましい目を向けられ、アナスタシアは涙目になり、同情を誘おうとする。

 しかし、そのような手あざとさに騙される二人ではない。


 アナスタシアが思わず、委縮するほどの目を向けるが勿論、本気ではなかった。

 怯えるアナスタシアを見て、嗜虐性が満たされたのか、それで仕舞いとなったからだ。


「まあ、いいわい。珈琲が温くなるよ。ささ、飲みな」


 相も変わらずのぶっきらぼうな言い方だが、リュドミラはそう促す。

 お茶会とは言いながらもこの地域で好まれるのは紅茶ではなく、珈琲である。

 それもルシアンコーヒーと呼ばれるカカオと珈琲が半々にブレンドされた甘目の珈琲であり、仕上げとしてたっぷりと生クリームを投入する。

 お茶請けも割合、糖度が高めの物を好むので気になる方にはとことん気になる内容のお茶会とも言えよう。


 仕切り直しとなり、珈琲を口に運びながら、スヴェトラーナはゆっくりと語り始める。

 リューリク公国チェムノタリオト家にまつわる決して、表には出せない闇に秘めし物語を……。

 無限なる図書館インフィニトゥム・ビブリテオカで見た悍ましき真実を……。

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