21 熊夫人のお茶会①
スヴェトラーナもアナスタシアが声を大にしての要求に一理あると考えていた。
『魔王』だった頃に比べると現在の肉体はあまりに脆弱。
細く、しなやかな指は武器を持つのに適していない。
腕にもちょっと重い物を持ち上げただけで限界を迎える貧弱な筋肉しか付いていない。
(まぁ、身体強化すれば、問題はないのだけど……)
『魔王』と呼ばれる存在が全て、屈強な見た目をしている訳ではなかった。
中には子供のような姿の者もいる。
箸より重いものを持たないと言われても驚かない優美な見た目の者が実に多いのである。
えてして、そういった者は単なる
真の力を解放するのであれば、元来の姿に戻らなくては肉体が持たないのだ。
ほとんどの『魔王』が
彼らは力のコントロールに長けているので人の姿をしていても瞬間的に力を上げる器用さも兼ね備えていた。
それには『身体強化』の魔法をほぼ無意識で自在に操ることが肝要だった。
(要は肉体が持つ程度に抑えれば、いけるのだけど)
そうすれば、目の前にあるテーブルを手刀でいともたやすく、真っ二つに切断することも可能なのだが……。
そんなことを考えながら、スヴェトラーナがテーブルを見つめていたせいだろうか。
「ダメですよぉ、姉様! そういうことしちゃ、ダメ!」
「
「
「…………」
「おばあ……リュドミラさんに怒られちゃいます」
「それは面倒だわ」
スヴェトラーナはあっさりとテーブルの試し切りを撤回した。
決断が誤りと判断すれば、すぐに修正する。
そのように動ける自分は「何とてロジカルなの!」と姉が心中で自画自賛しているとは考えもしないアナスタシアは、テーブルを睨んだまま微動だにしないスヴェトラーナを心配しているほどだ。
結局のところ、姉妹の話し合いは平行線を辿った。
これといった今後の方策を未だに思いつかない姉妹の顔つきは愁いを帯び、とても美しく……はなかった。
マイナスイオンならぬマイナス空気とでも呼ぶべき、見た人の気分までも落ち込ませるに十分な陰気な姿である。
「何だい、二人揃って、そのざまは!」
既に恒例行事となっている午後のお茶会と銘打ったリュドミラのリュドミラによるリュドミラの為の若く、可愛い娘を愛でる大事な時間である。
それを台無しにされ、リュドミラは開口一番の台詞が中々に辛辣だった。
彼女が誤解されやすい理由の一つはひとえに口の悪さに他ならない。
彼女の長い人生において舌禍により、険悪な雰囲気を招き、実際に取っ組み合いの喧嘩になったことすらあるのだ。
当然、物理的に黙らせられる格好となり、リュドミラの噂にさらに尾鰭がつくことになった。
実際、口ではそう言いながら、リュドミラはスヴェトラーナとアナスタシアのことをかなり、心配しているのだ。
表情にも表れているのだが、リュドミラの噂に惑わされている者はそれに気付かなかっただけである。
「まぁ、その……」
「色々と考えていたら、こうなっちゃったんですよぉ」
気分としては限りなく、底辺に近付いている姉妹だがリュドミラに心配かけさせていることに気付かないほど、愚かではない。
「あんた達にも色々あるのは分かっとるよ。あたしゃね。気が短いんだ。全部、吐いちまいな」
乱暴な物言いではあるが、二人にとってこれほど有難い言葉はなかった。
スヴェトラーナは全てを明かすことが出来ない立場にいる。
あやかしの類が跋扈する世の中といえど、自分が『魔王』だったと明かすことは出来ない。
だがこの女傑の知恵と力を借りるのも悪くはないとも考えた。
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