第15話 魔女の輪(1)
少し早い昼をすませて森を進む。
太陽は真上をゆっくり移動していた。森の景色は単調で木々が乱雑に生えている。下草が覆っていてどこまで行っても似たような風景が続いていた。
頭上で鳴き交わす小鳥を乱射るは見ていた。
「朝、昼、夜。朝、昼、夜」
ぶつぶつと繰り返すランシャルを数名の騎士がちらりと目を向ける。ルゥイはランシャルの視線を追って同じように見上げた。
「どうかしたんですか?」
ルゥイに聞かれてランシャルは眉間にわずかなシワを寄せた。
「なんだか変。小鳥たちが僕らに3度会ったって言ってる」
「朝と昼と夜に、ですか?」
「ああ・・・・・・小鳥たちは数字を知らないから」
そう言ってランシャルは笑顔を見せた。
「映像で教えてくれたんです。3回って意味だと思う」
「小さいのに行動範囲広いんだな」
コンラッドは何気なくそう言った。
「行動範囲が広いっていうか・・・・・・」
「ん?」
「何度も出会って不思議がってる。僕らがやって来るって言ってる」
シリウスとロンダルは2人の会話を聞きながら小鳥を見上げた。そして、辺りへ注意深い眼差しを向ける。
「シリウス様」
後方からロンダルが声をかけた。
「妙だと感じるか?」
「なんとなく感じていましたが」
前後で交わされる会話を耳で追いながら、ランシャルは森のあちこちへと目を向けた。
(妙って何が変なんだろう)
変なことと言えば、
(ずっと着いてきてたのに、追うのはやめたのかな?)
そんな事を考えていたとき、
(右側にいる)
右前方に彼らは立っていた。
それまで左側を着いてきていた彼らを右に見るのはなんだか変に感じた。静かに森の染みのように佇んでいる。
進むほどに
「今度は左側に立ってる」
ランシャルはぽつりとそう言った。
いつの間に追い越されたのか、それとも彼らが空間を跳躍する
「確かに妙だ」
ルークスとラウルが同時に言った。
「あの曲がった木、少し前にも見たような・・・・・・」
まっすぐな木ばかりではない。曲がった木も少なくない。似ているだけだと思えばそうも見える。
「待て」
皆を止めたシリウスが胸元から何かを取り出した。それは細いチェーンだった。チェーンのその先に小さな色石が付いている。
「都はどこだ」
シリウスが石へ問いかける。
「あっ!」
石がすいと動いてランシャルは驚き声を漏らした。
都はあちらですと言うように、小石は細いチェーンをぴんと張って右を指し示していた。誰かに引っ張られるように空中に浮いている石がランシャルには不思議でたまらない。
「凄いだろ、俺も初めて見たとき驚いた」
目を丸くしているランシャルに顔を寄せて、コンラッドはクスクスと笑った。
「どうやら我々は輪の中にいるらしい」
シリウスの言葉に騎士たちが周りに目を走らせる。
「気をつけて進め」
馬首を石の示した方角へ向けて再び馬を歩かせる。
「あの石はなんですか? 輪の中って?」
周りの騎士たちに目を配ってランシャルは答えを求めた。
「あの石は示しの
答えたルークスは続ける。
「小鳥が3回会ったと話してくれたんですよね?」
「はい」
「霊騎士たちは動かず先回りをしているように見える」
ランシャルはまた頷いた。
「我々は魔女の輪の中にいる可能性があります」
「それは何ですか?」
「魔法のひとつで・・・・・・」
説明の言葉を探すルークスにラウルが続けた。
「地方によってはドワーフの結び目とか妖精のいたずらと言ったりします」
「妖精のいたずら!?」
ランシャルとコンラッドが目を合わせる。
「僕ら同じ所をぐるぐる回ってたってこと?」
「そのようです」
ラウルが肯定してルークスが続ける。
「我々は西にある都へ向かって進んでいました。石が右を示したということは、いつの間にか南へ向かっていたことになります」
説明を受けている間も騎士たちの目は輪の始まりを探していた。
「あれは?」
ダリルが指差した先は高い木の上。
木から木へ渡した蔓が空中でくるりと輪を描いていた。
「よく見つけたな」
シリウスに言われてダリルは嬉しそうにはにかんだ。
木々の枝が折り重なり蔓の葉が邪魔をしている。よくよく見なければ気づかずに過ぎてしまいそうだ。
「ルゥイ、あれを切ってもらえるか?」
「はい」
ルゥイが真剣な眼差しを輪に向ける。彼女が手を組むより早くシリウスが言った。
「気をつけろ」
剣に手をかけてシリウスが部下に注意を促す。
「え? どうして?」
ぴりっとした空気にランシャルとコンラッドは目を泳がせた。
妖精のいたずらならループがほどけるだけだ。しかし、魔女の輪ならいたずらではないだろう。意図を持って仕掛けられたものに違いない。
輪が解けた瞬間、目の前に敵が立っていてもおかしくはない。
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