File12-③.case原真琴

受け持つ患者情報

 812号室

 氏名:冴島拓真さえじまたくまさん

 年齢:38歳

 性別:男性

 既往歴:腎不全(CKD)

 入院歴:あり

 内服情報:ワンアルファ、カルタン、フォスブロック、クレメジン、

      酸化マグネシウム、アムロジピン

 経過:慢性腎不全。生体腎移植予定。妻ドナー。移植日未定

    透析日 月・水・金



情報収集した内容を月島が作成した用紙へと記載。

今まで担当したことがない患者さんであり、俺は少し焦りを感じていた。知識としてはなんとなくわかっているものの、いざ受け持つとなると話は別だ。

〈腎移植って…いきなりハードルが高くないか。しかもなんでよりにもよって俺なんだ…飲んでる薬も聞いたことないの多いぞ〉

色々と考えを巡らせながら情報収集を終え、病棟に置かれている参考書を物色——。

『病気がみえる 腎・泌尿器』を手に取り、索引から慢性腎不全の項目を探す。ページをめくり終えたタイミングで佐久山さんに呼ばれた。


■□■□

原真琴はらまこと。H大学看護学部看護学科を卒業。この道をすすんだ理由は至ってシンプルな理由。当時放送していたテレビドラマに影響され、俺もあんな風になりたいと思ったから。

〈医者にあんなに強く言える看護師ってかっけーな〉

動機はともあれ、勉強は必死に頑張った。中学で一緒になった牧田とは同じドラマの話で意気投合し、そこから高校受験、大学受験に励まし合いながらここまできた。

その中でも、看護師国家試験は桁違いで緊張した。1年に1回しかない、しかも足切り点は全受験者の点数から決まるとなると、何点取れば良いかなんてわからなかった。高得点であれば何の心配もないが、自己採点で際どいラインだった俺は、最後まで不安なままだった。

そんなこんなで、ついに俺は看護師として働けるようになった。

そして、配属先の発表を聞いて更に驚いたことがあった。それが牧田と同じ部署で働くと決まったこと。

〈常に明るく前向きな俺。今日だって難なく乗り越えてみせるぜ〉


■□■□

「原君」

「はいっ」

「返事だけは相変わらずいいね」

「お褒めに預かり光栄です」


俺はいつもこんな感じだ。周りから見れば、ちゃらけているようにも見えるが、俺自身がこういう感じでいないと落ち着かない。


「はいはい。で、どこまで情報は取れたの?」


そう佐久山さんに聞かれ、俺が情報として知り得たことを述べた。黙って聞く佐久山さんの顔色を、時々伺いながら俺は続けた。


「…以上です」

「じゃあ聞くけど、冴島さんの腎臓って今どんな感じなの?」

「えっと…機能としては使い物にはならない感じです」

「言い方…。間違ってはないけどさ。透析せなあかんくらいの腎機能ってことは、日常生活にどんな支障があるの?」

「水分を摂りすぎると浮腫みが出てきたり、疲れやすさも出ます」

「基礎的なことはわかってるな。原君なら大丈夫やろ」


佐久山さんは資料がたくさん入れられているファイルを取り出し、その中からいくつかのパンフレットを渡してくれた。


「これ、参考になると思う。移植を受ける患者さんへ渡すパンフレット」

「ありがとうございます」

「移植するまでまだ日数はあるけど、これからもずっと冴島さんの担当になると思っといて」

「はい」

「牧田君から聞いた後にまた確認するから、それまでの間に、その病気が見える、でも読んで、知識を深めておいて」


月島は、俺ら同期だけで集まった際に、佐久山さんの事をあまりよく思っていないと感じた。真面目な月島のことだ。確かに、数多くいる先輩の中でも、佐久山さんは真面目という言葉が一番似合わない。かといって不真面目、というわけでもない。俺ら4人のことをしっかりと指導してくれるし、何より患者さんから絶大な信頼を得ていると思った。指導される俺からすると、佐久山さんみたいな距離の近い先輩は有難いと思ったし、これからもついて行きたいと思った。


俺は佐久山さんから貰った資料を読むため、もともと座ってい場所へと戻った。

〈牧田のやつ、結構色々言われてんなぁ…〉

知識は持ち合わせているけど、実践の方で苦労してたもんな、あいつ。


人の事をとやかく言ってる暇なんてない、そう言い聞かせ、俺は資料に目を通し始めた。



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