File12.新人看護師への試練
俺がドアで額を切ったことはすぐさま広がり、病棟スタッフだけでなく、入院患者さんにまで広まっていた。
〈個人情報もへったくれもなんもないな…〉
額の傷をガーゼで固定した状態で病棟へと入り、受持ち患者さんの情報を遅れながら取っていた。デイリーダーから簡単な申し送りを受けたあと、15分で情報収集すると1年目の4人へ告げ、しばらく待機してもらうことにした。その間、巡回で使用する物品に関しては各自で準備するようにと告げた。
空いているパソコンを見つけ、俺は4人が受け持つ患者さんの情報収集を始めた。
月島君——
805号室3ベッド—本日入院予定の
〈入院をとるのは…確か2回目だな。月島君メインで色々としてもらうか。初めての入院ということは…オリエンテーションに少し時間がかかるかな〉
西口さん――
802号室4ベッド―
〈手術へはもう出棟しているから…術後ベッドと部屋の準備をしてもらわないと…今までにも術後の準備はしていたはず…だけど、結構抜けがちだからなぁ…西口さんメインで動いてもらうけど、サポートはいるな〉
原君——
812号室—
〈透析の患者さんを看るのは初めてだったな…まずは疾患に関すること、透析に関することを聞いてから…か。移植の資料も渡さないとな…はぁ。なんでこのタイミングで移植なんか…って言っても滅多とない、いい機会だからなぁ〉
牧田君——
809号室—
〈術後3日目の状態をどこまで情報として得ているのか…4人の中で井上さんが一番重症度が高いかな…ラウンドは皆で一緒に行くべきか、人数少なめで行くか…ガーゼ交換には行ったのか?あとでリーダーに確認してみるか、牧田君は…回腸導管の患者さんを看るのは初めてか…えっ、マジで…〉
予定していた時間よりも早く情報収集が終わり、俺は4人を詰め所の角に集めた。
それぞれが情報として得たことを俺に話してもらい、不足している情報があれば補足、知識として不足があれば調べてもらう、準備等のサポートは全面的に指導係の俺に降りかかってくるため、かなり責任重大だ。
日を追うごとに、それぞれのレベルに応じた看護ができるよう日々の割り振りも考えなくてはならず、精神的なサポートもするともなれば、俺1人では到底無理だ…。
だがそんな弱音なんて吐いてる暇はなく、時は進んで行く。患者さんも待ってくれはしない。
…酷な話だこと。
ふぅ、と息を吐き、俺は頭の中で色々な思考を巡らせるのを一旦やめることにした。
4人がいるところへと行き、声をかけた。
「今朝は遅れてごめん。ケガはもう大丈夫だし、いつも通りいこか」
「さっきまでとは全然違うテンション…先輩、さっすが~」
「それぞれ患者さんの情報は取ってるかと思うので、1人1人俺に報告して。いつものように、俺が問題ないと判断した上で、患者さんのとこに行ってもらうから。よし…じゃあ、まずは…月島君からいこか!!」
俺、仕事モード起動。
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