第3話 VSゴブリン五匹
「いくぞ!
俺は自分がカッコいいと思える動きをシュババと行い、森中に響く大声で叫ぶ。
―――――シン。
*しかし、なにもおこらなかった!
「ちょっと! そんな魔術聞いたことないんだけど!?」
「あ、あれ……無理だったか」
もしかしたらここは、本当にミレナリズムの世界なのか?だから研究していない魔術は使えない?
「ちょっと、なにぼさっとしてるのよ!」
「おっと」
少女の言葉で意識を目の前に戻す。
「ギャギャギャ」
どうやら俺が魔術を使えなかったことを嘲笑っているらしい。
元々イラつく顔をしているからか、その様子はとても癇に障った。
「なら、これならどうだ!
これならどうだ……?
「ギャッ!?」
予感は的中。
俺が付き出す右手に真っ黒な炎の球体が浮かび上がる。
大きさは……人間の頭くらいか。
……いや、今でも真緑だけど。
「今更遅い! その身を灰に変え、我を嗤ったことを後悔するがいい!」
右手で獄炎の球を突き出すと、それは猛スピードで一匹の
「グギャアアア!」
杖を持っていた
十数秒燃え続けた火がようやく燃えると、そこに残っていたのは僅かな灰のみだった。
「す、すごい……」
「お、おぉ……」
それを見た俺の口から、思わず声が漏れ出てしまう。
使えた。使えちまったよ魔術。
俺は震える右手を呆然と見つめる。
正直言おう。
心が高鳴る。楽しい。
つまらない前世じゃ味わったことのない快感だった。
もう俺は、ただ周りに流されるだけの退屈な人間じゃないんだ。
「グギャ……グギャ……?」
仲間が燃やされるのを見た
「フハハハハ! これが我に逆らうということだ! 互いの力量差が分かったのなら潔く去るがいい!」
「ギャギャ……ギャッ!」
「……え? わ、私?」
しかし、一匹の
(くっ……狙いは俺じゃない!)
少女は突然の出来事か、はたまた醜悪な
(魔術は……間に合わないか!)
「……くそっ!」
「きゃっ!」
俺は意を決して少女の元へ駆け寄り、彼女を抱き着くように庇う。
「ギャギャ!」
直後、
俺は目をつむり、来たる痛みに備えた。
「いたっ…………くねぇ!」
「ギャッ!?」
しかし、予想していた痛みは来なかった。
いや、全く痛みが無かった訳ではない。しかしそれは、幼稚園児に軽く殴られたかのような……ぽん、と軽い衝撃が伝わっただけだった。
「ちょ、ちょっと!? 大丈夫なの!? ……て、いうか離れて!」
「あ、ああ……」
顔を真っ赤にした少女に突き飛ばされ、俺は彼女を解放する。
しかし、俺の頭にあるのは今の出来事。
俺は目の前で呆然と立つ
どう見たってあれで殴られれば無事じゃすまないだろう。位置的に、最悪頸椎が傷付けられてもおかしくなかった。
だが、俺の背中にはもう痛覚は少しも残っていなかった。
(そうか、
戦闘力。
それはミレナリズムにおいて、そのユニットがどれだけの力を持つかを示す簡易的な数値だ。
ミレナリズムに登場するほとんどのユニットには、物理攻撃力、魔術攻撃力、治癒力……といった様々なパラメーターが設定されているが、それをひとまとめにし、一目でそのユニットの強さを示すものがある。それが戦闘力だ。
俺――ヴァルター・クルズ・オイゲンの戦闘力は「60」であるのに対し、
ミレナリズムではこの戦闘力の差が50以上あると、片方の完封勝ちという処理がされる。
つまり、ヴァルターとなった俺が
簡単に言うなら、ラスボス直前の勇者がそこらへんのスライムに攻撃されてもダメージを受けないのと一緒ってことだな。
「ギャギャギャー!」
俺に敵わないと理解したのか、俺に殴りかかった
味方に見捨てられた
「丁度いい、我の実験相手になってもらうぞ」
「グギャッ!?」
ミレナリズムにおける、最初期魔術。そのうち闇魔術に分類される魔術は、先程の
「
それがこの
先ほどの
しかしその分、威力は
魔術を唱えると、俺の右手に大きな漆黒の爪が生える。
(なにこれカッケェー!!)
内心、そのあまりに中二心をくすぐる見た目に興奮していたが、犬耳少女がいる手前、表情には出さない。
「喰らえっ!」
「ギャッ!?」
拳三つ分くらいの爪を振り下ろすと、
(……やっぱり、戦闘力60もあれば
「すごい……」
思考の海に潜りかけた俺は、感嘆の声によって現実に引き戻される。
「え?」
「あ、あんたすごいじゃない!
犬耳少女だった。
彼女は満面の笑顔で飛び跳ね、俺の事を褒めてくれる。
「……当然だ」
(まぁ俺の力じゃないんですけどね!)
確かに
しかし、褒められるのはいいものだ。
思わず口角が上がってしまう。
「あ、背中は大丈夫なの?」
「ん? あぁ、大事ない。痛みもとうに消えたしな」
(多分、ヴァルターの物理防御力が
「そ、そう……」
「?」
それだけ言うと、犬耳少女は顔を赤らめさせ、もじもじとし始めた。
な、なんだ?トイレだろうか?困ったな。女性をさりげなくトイレに誘導するスキルなんて持ってないぞ。
「そ、その、ありがとね。庇ってくれて……」
「……あぁ」
どうやら、そういうことらしい。
俺を突き飛ばしてしまった手前、素直に感謝を告げられづらかったと。
いやぁ、でも結局ありがとうが言えたのだから、この子はいい子なんだろう。
「フ、問題ない」
(寛大な魔帝ムーヴ! 我ながら惚れ惚れするな……)
俺って魔帝の適性あるんじゃねえかと思っていると、少女が口を開いた。
「ねぇ、もしかしてあんたって……
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