第2話 第一村人発見
『ミレナリズム』。
それはコアなゲーマーから熱狂的な支持を受けている戦略
プレイヤーは数百もある国家から一つ選び、指導者となる。
そして、他のプレイヤーやAIが操作する国家と覇を競い合う、『国運営ゲーム』とでも言えるゲームだ。
貿易、戦争、内政…………。
どれをとっても奥が深く、また無数にある国家などがやりこみの好きなコアなゲーマーに受け、発売されてから八年経っても盛んにマルチプレイが行われている。
また、ファンに受けている要素の一つとして、『隠し国家』がある。
これは言葉通り普通ではプレイできない国家があり、特別な条件をクリアしてようやく使えるようになるのだ。
そして、川に映る男……『魔帝ヴァルター・クルズ・オイゲン』は俺が世界で初めて見つけた隠し国家『魔帝国グリントリンゲン』の指導者ユニットである。
指導者ユニットってのはあれだ、王や皇帝だったり国で一番偉いキャラで、いわゆるプレイヤーの分身。
そしてその身分に相応しいゲームの局面を変える程の力を持っているのだが……。
「いやいやいや、なんで俺がヴァルターになってんだよ!!!!」
俺は力いっぱい、そう叫んだ。
▼▼▼▼▼▼
それから数分後、俺はようやく落ち着きを取り戻し始めていた。
もちろん、俺がヴァルターになってしまったってことを素直に受け入れられたわけではない。
しかし、いつかは受け止めないと話が進まないよなという……諦めに近いな。
「そうはならんやろ」「なってるやろがい」の精神である。
「しかしヴァルター……ヴァルターか……」
『魔帝ヴァルター・クルズ・オイゲン』。
それは全『ミレナリズム』プレイヤーの中でも使用できるのが俺しかいない、俺にとっては大切な、最愛のキャラクターだ。
死んだと思ったら自分の好きなキャラになって生まれ変わる……。
中二病患者の妄想話のようだが、俺はどこか興奮していた。
なんたって、俺の前世は誰が見ても退屈な、とてもつまらないものだった。
しかし、今俺を囲う状況はどうだ。
自分が好きなキャラクターになって、
これで興奮しなければどこでするのか。
「まるで自分がラノベやアニメの主人公になったみたいだな」
俺はもう一度川に映った自分の姿を確認する。
顔は整ってはいるが、どう見ても悪人面。一生赤ん坊をあやせないだろう凶悪面だ。
それもまた、ヴァルターというキャラが『魔帝』という立場にいることの証拠の一つだろうが。
「…………」
俺はキョロキョロと周りを見渡す。
遠くからなにか奇妙な鳴き声は聞こえるものの、人の目はゼロ。
よ、よし。いくぞ……!
「フ、フハハハハハ! 我こそが魔の頂点に座する者! 魔帝、ヴァルター・クルズ・オイゲンである!」
言ってやった!言ってやったぞ!
やべー!魔帝ロールプレイ楽しい!
俺の中に眠る中二心が元気よく踊っているのが感じられる。
いやぁ、こんなこと人目のある所じゃ出来ないからな。
開放的な場所でこんなことを叫ぶのはこう……なんか楽しいな。
(なんか変質者みたいだな……。もしかして露出狂ってこんな心情なのか……?)
俺は自分の中で目覚めつつある怪しい気持ちを慌てて抑え、切り替える。
「とりあえず……この森、出るか」
▼▼▼▼▼▼
一時間後。
俺は未だに森を彷徨っていた。
「はぁ、はぁ……。この森……深い!」
未だにふざけられる余力はあるものの、いよいよ本当に厳しくなってきた。
歩いても歩いても、森から出られないのだ。
むしろ、さっきから同じところをずっと歩き続けている気がする。
まるで迷宮だ。
「取り敢えず……俺が主人公という可能性は消えたな……。はぁはぁ……。だったらこんな退屈なシーンがこんなに長々と続くわけがない……」
自分でも意味の分からないことを呟きながら歩く俺。
そろそろ座って休憩でもするか……。
そう思った瞬間だった。
「うおっ!」
視界の端からこちらに何かが飛び込んできた。
俺は咄嗟に、上体を後ろに逸らす。
すると、一瞬前まで自分の頭があった場所を石が右から左へとまぁまぁなスピードで通った。
「あぶ――おおっ!?」
危なかった。
そう思った瞬間、下腹部に加わる衝撃。
「ひ、人!?」
それは人だった。視界にちらりと映るのはボサボサの金髪。
上体を逸らしていた俺は呆気なく地に伏せられ、謎の人物によってマウントを取られてしまう。
「死んじゃえ! このっ!」
「え、ちょ、待っ……!」
そして俺が何も弁護できないまま、謎の人物は手に握るナイフを俺の頭に振り下ろした。
あれ、俺の二度目の人生、完……?
「ん、んん……? 魔族……?」
俺が早すぎる異世界転生の終わりに驚いていると、謎の人物は眉間から数センチ浮かせたところでそのナイフを止めた。
(し、死ぬかと思った……!)
ナイフは目の前で止まったものの、俺の鼓動は高鳴るばかり。それに、嫌な汗もこめかみを伝った。
「あんた……誰……?」
俺は高鳴る鼓動を落ち着かせながら、謎の人物を見る。
それは、少女だった。
ボサボサの金髪、小汚い服。そこから覗く腕には生々しい傷。
十代後半だろうか。可愛らしい顔にはあどけなさが残っている。
しかし、それよりも目を見張るものがある。
それは彼女の頭頂部に生える犬のような耳。
それを見たほとんどの者の頭にそんな言葉が浮かぶだろう。
もちろん、ファンタジー世界を舞台にしたミレナリズムにも彼女のような種族は登場する。
彼女のように犬が元となったであろう獣人は
(もしかして、俺は本当にミレナリズムの中に転生してしまったのだろうか……?)
「とりあえず……下りてくれないか?」
「あ、そうよね。ごめん」
俺の言葉に、少女は素直に従った。
立ち上がり、服に付いた土を軽く払う。
そうしていると、視線を感じた。
そちらを見ると、少女と一瞬目が合う。
しかし、少女はすぐに気まずそうに視線を逸らした。
危うく殺しかけてしまったことを謝りたいが素直にできない、そんなところだろう。
まぁ、彼女位の年頃だとそんなもんだろう。
「そ、それで、あんたはだれなの? どうして魔族がこんなところに?」
少女は目線を合わせないままそう問いかける。
こちらにも色々言いたいことはあるものの、この世界で初めて会った人物だ。友好的に接しておこう。
ちなみに、魔族というは俺――というかヴァルターの種族だ。
ミレナリズムでは、ツノ、翼、尻尾が生えており、魔術に長ける寿命の長い種族……として登場していた。
「俺……いや。コホン、我は魔帝ヴァ――」
「――ちょっと待って」
気持ちのいい口上は、少女の制止の声で止められてしまう。
お前が聞いたんやろがいと叫ぼうとした瞬間、木々の隙間からそいつらは現れた。
「ギャッギャギャ」
「ギャアギャア」
しかし、先程見たように単体ではなかった。
各々がボロボロではあるものの、剣や槍で武装していた。一人杖を持つ者さえいる。
……さっき見た時は怯えてしまったが、何故か今は平気だった。
自分がヴァルターであることを知ったからかもしれない。
「ゴ、
少女は見るからに狼狽えている。
怯える犬耳少女に、下品な笑みを浮かべるゴブリン集団。
俺がいなければ変態紳士の皆さんが歓喜するシーンだろう。
「あ、あんた、魔族なんだから魔術の一つくらい使えないの!?」
「ん?」
犬耳少女は涙目になりながら俺に問いかけた。
魔術、魔術か。
ミレナリズムはファンタジー世界を舞台にしたゲーム。それ故魔術と言った要素も当然あり、ヴァルターも指導者ユニットの他に魔術師ユニットとしての一面も持つ。
つまり、今の俺は魔術を使えると言うことだ……恐らく。
……いいじゃないか、魔術。
心が震えるワードだ。
俺のつまらない人生を簡単に上書きしてくれるであろう魅惑的な言葉だ。
「……いいだろう。我の後ろに隠れろ」
まぁ、いつかは自分の戦闘能力も把握しておかないといけなかったのだ。
そうしないと前世よろしく敵わない敵と戦ってしまい呆気なく死んでしまうかもしれないし。
「ほ、ほんと!? じゃあお願いね!」
見るからに安心した様子の少女は素早い動きで俺の後ろに移動する。
調子のいい奴だな。
「ゴホン」
まぁいい。
折角の異世界での初戦闘だ。
ド派手に決めてやるとしよう。
「いくぞ、
やべー!俺今めっちゃかっこよくない!?
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