side涼-③
雅美に「どうしたの?」と聞かれ、俺は戸惑った。本当に俺って奴は、何でも顔に出てしまうらしい。
「何でもないから、気にしないで」
俺はそう言うが、雅美は当然、納得なんてしてくれなかった。
「嘘だよ。何でもなくないでしょ? だって、この前の涼くんと全然違う……」
それはそうだろう。俺は、今日の雅美の姿を見て、この前のことを反省した。雅美を困らせたりしないように、言動を控えようと思っているのだから、対応が変わるのもおかしな話では無い。
ただ、意識していないと、俺はまた素直に「可愛い」なんて、声に出して言ってしまいそうだから、静かにしていた。雅美に近づきたい気持ちもあって、それが言動に出ないように、気をつけているのだ。
雅美が心配をしてくれるほどなので、今の俺はあからさまに挙動不審になっているのだろうけど……。
「本当に大丈夫だから」
「でも、気になるよ。私、涼くんと遊んで楽しかったし、仲良くなれたと思ったのにな……」
雅美はそう言うと、眉を八の字に下げて俺を見上げてくる。俺の向かいに座っていた雅美は、隣まで移動してきて、座ったままにじり寄ってきた。
「涼くん、私がまた遊ぼうって誘った時から変」
「それは……」
にじり寄ってきて、不安げに俺の顔を見上げてくる雅美は、かなり可愛らしい。なんだか小動物みたいだし、距離もかなり近い。
本当に今日で打ち解けてくれたのだろう。以前までだったら、絶対にこんなに近い距離で会話してくれなかっただろうから。
「私、何か粗相をしてしまったかしら?」
雅美が更に距離を詰めてくる。さっきからちょこちょこ思っていたが、近すぎる。ここまで近寄られると、感情を抑えきれなくなりそうだ。
元々顔にも言葉にも出やすい俺だから、顔が熱くなっていくのが自分でわかって、恥ずかしかった。
「近いよ。俺が告白したこと、忘れたの?」
俺がそう言うと、雅美は少し不満げに、しかし照れた様子で距離を取った。
「ごめんなさい……」
「あ、いや……。ごめん」
告白のことまで蒸し返すつもりは無かったのに、俺は素直に思っていた言葉を声に出してしまった。やはり、感情を抑えきれなかったということだ。
雅美の様子を窺うと、雅美は白い肌を真っ赤にして俯いていた。
またやってしまった。反省していたはずなのに、また雅美に意識させてしまった。雅美は友達として、俺と仲良くしてくれようとしていたのに……。
俺は自ら距離を取って、心配をかけて、挙句に感情が抑えきれなくて、また告白まがいのことを言ってしまったのだ。
「忘れてた訳じゃないわ。私だって、今日の放課後まで、ずっと涼くんに会うの緊張してたもの」
「そ、そう……。ごめん」
「何度も謝るのやめてよ。涼くんと遊んで、涼くんの人柄を少しは知ることが出来たから。仲良くなれたと思ったから、今は緊張しないでお話ができるのよ」
雅美はそう言うと、気持ちを落ち着かせるように深呼吸をした。何度か深呼吸を繰り返して、彼女の顔の赤みも引いていく。
「だから、そんな風に気を遣われると、逆に辛いわ」
「う。や、だって……俺、すぐに顔に出るし、今だって、言葉にするつもりはなかったのに、こ、コクハクのこと言っちゃうし……」
告白の部分を小声にして、俺は言う。傍から見た俺は、凄く情けない顔をしているのだろうな。と思った。
「いいじゃない。涼くんは素直で真面目な人なんだって、よくわかるもの」
「え?」
「だから、涼くんはそのままでいいと思う。気を遣ったりとかしないで? その、て、照れはするけど…可愛いとか、好きとか……嫌だと思っていないし、意識してしまうのだって、もうちょっとあなたに慣れれば、少しは……」
雅美はそう言うと、また顔を真っ赤にしてしまう。長いサラサラ黒髪を手で掴んで、カーテンをかけるように赤い顔の前に持ってきて、俯いた。
「全く意識されなくなるのも、寂しいかも」
「え? ちょ、ちょっとそれはわがままじゃないかしら」
「うん。そうだね」
あんまり困らせたくは無いけど、俺にそのままでいいと言ったのは雅美だ。だから、これからも、アプローチかけたりしていいのかな?
「私だって、涼くんと仲良くしたいと思っているのよ。い、今は涼くんとは別の意味でだけど……まだ、あなたとは知り合ったばかりというか、知らないことの方が多いでしょ? 私は一目惚れなんてしたことないから、あなたの気持ちに答えを出すのはまだ難しいのよ」
雅美は慌てると、自分の髪をいじる癖でもあるのだろうか。長い黒髪をくるくると指で遊ばせながら、早口でそう言った。そんな一面も可愛いな。なんて、俺はさっきの反省も忘れて、そんな呑気なことを考える。
「うん。わかってるよ」
「だから、涼くんをもっと知りたいと思う」
「うん。そう言ってくれてありがとう」
「だからね、今度遊びに行こう?」
「さっきも言ってたね。みんな誘って遊ぼうな」
雅美はきっと、みんなともっと仲良くなりたいだろう。その中に俺も入れてくれるだけで嬉しいし、もう少し仲良くなれたら、デートに誘ってみようかな。なんて、そう思った。
「みんなともそうだけど……涼くんだけをよく知る機会があってもいいじゃない」
「え? えーっと……」
「だから、二人きりでも遊ぼうね」
「……デート?」
俺はつい、思ったことをそのまま言葉に出してしまう。口元を押さえてから雅美を見ると、雅美はポッと顔を赤くしていた。顔色が変わるとすぐにわかるから、本当に雅美は可愛らしい。
「あ、遊びに行くの! と、友達としてよ?」
「わかってるけど……」
雅美にとっては違うだろうけど、俺にとってはデートなんだよなあ。だって、好きな人と二人きりで遊ぶわけだろ?
「友達としてでも、やっぱり嬉しいな」
雅美に誘われたことが衝撃的で、反応が遅れてしまったが、じわじわと嬉しい気持ちが込み上げてくる。俺はつい、浮かれてしまいそうになった。
「デートじゃないからね?」
「うん」
「ただいまー? あっれえ? 涼、何顔真っ赤にしてんの?」
俺がにやけそうになっている顔を隠していると、兄さんと沙江さんがリビングに帰ってきて、俺は兄さんからからかわれてしまうのだった。
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