side涼-①
由香に委員会についての伝言を伝えた後、俺は同じクラスの友達の元に戻る。
すると、様子を見ていたのか、二人いる友達のうちの一人である、
「珍しいな。涼が女子にフラれんの」
「別にフラれてないし」
他の女子のことなら、からかわれてもなんとも思わない。でも、対象が雅美だと、ちょっと凹む。俺は不貞腐れた顔で申を睨んだ。
「えー? もっと珍しい。涼が女の子のことでそんな顔してるの、初めて見たんだけど」
今度は、申の隣にいたもう一人の俺の友達である
「だって……」
俺は、自分でも嘘をつくのが苦手だと自覚がある。思ったことが、つい顔に出てしまうのだ。だから、今もニマーッと期待した顔でこちらを見てくる二人に、俺の気持ちはお見通しなんだと思う。
「誰かを好きになったのなんて、初めてだし……」
俺がそう言うのを待っていたのか、二人はグイッと顔を近づけてきて、キラキラした目で俺を見つめた。
「やっぱり?」
「なんか様子が変だと思った! あの子可愛いもんなあ」
「ま、まあ……。可愛い……よな」
めちゃくちゃ恥ずかしいし、今の俺は絶対に顔が赤くなってしまっている。まだからかい顔で見てくるこいつらに、多少の怒りも感じる。
「いつから? 涼ってあの子と接点あった?」
「市川さんって、最近転校してきたばっかりの子でしょ?」
二人が興奮気味に聞いてくる。声が少し大きかったから、俺は思わず周りの様子を窺った。
周りは、真面目に縄跳びを跳んでいる生徒もいるが、遊び半分で騒いでいる生徒や、疲れたのか休憩している生徒も多い。俺達の会話なんて、誰も気にしていないようだった。
俺はほっと息をついて、二人に視線を戻す。
「家が向かいなんだ。引っ越してきたその日に……その……ひ、一目惚れしちゃって……」
改めて言葉にすると、やっぱり恥ずかしいな。動いてないのに顔が熱い。縄跳びを持つ手も汗ばんできた。
「そっか。お向かいさんか……え? 涼の家の向かいって、大きい屋敷じゃなかったっけ?」
充がそう言って、雅美の方を見る。雅美と由香は、既に休憩を終えていて、お互いに跳んだ数を数えてもらっているようだ。今飛んでいるのは、由香の方。
「うん。あの屋敷に住んでる」
「じゃあ、あの転校生ってお嬢様なんだな」
「そ、そういうことになる……かな」
帰国子女でハーフってところにばかり目がいってたけど、メイドみたいな人がいて、あんなに大きな屋敷に住んでるってことは、雅美はお嬢様だということだ。
「お嬢様かあ……。涼、難易度高いかもしれないけど頑張れ」
「でもまあ、涼ってそこそこモテるし。押せ押せでいけちゃうんじゃない?」
「あ、もう……その、こ、この前……告白…しちゃった」
俺がそう言うと、二人は顔を見合せて納得の表情を浮かべる。
「だから市川さん、涼と話す時ちょっとおかしかったんだ」
「うぐ」
「涼って、隠し事できないよねえ」
「名前知ったその日に告るとか、今考えても馬鹿だと思うよ。本当に……」
「マジか、お前」
「勇者かよ」
二人は俺を散々からかったあと、拗ねかけていた俺を宥めるように応援してくれた。
「なんかあったら協力するからさ」
「そうそう。なんたって初恋なんだし?」
「申は許さない」
「なんでっ!?」
充は本気で宥めてくれているけど、申は今もまだ面白半分だ。協力しようって気持ちはあるみたいだけど、からかいたいという表情が抑えきれていない。
「なんででもー!」
俺はそう言って、縄跳びの練習を再開する。反撃だ。申には反省してもらおう。と俺は思った。
放課後の委員会。その帰り際に、由香にまで雅美の事を聞かれてしまった。
「雅美ちゃんに何かしたの?」
「何かって?」
「うーん…なんとなくだけど、雅美ちゃんに涼くんの事を色々と聞かれたから」
「え?」
一瞬、気にかけてくれているのかと思ってドキリとした。しかし、告白してきた相手がどんな人なのか気になるというのも自然なことな気がして、俺は浮かれそうになった気持ちを落ち着かせる。
「雅美本人からは何も聞いてないの? 俺になんか言われたとか、なんかされたとか」
「うん。聞いてないよ。本当にただ聞かれただけ」
「そうか」
基本的に大人しい子だし、人にあれこれ言いふらすタイプでもないんだろうな。
「でも、心当たりはあるのね」
「まあね……」
俺がそう言うと、由香はソワソワと体を揺らした。気になるが、聞いてもいいのかどうか悩んでいる。と言ったところだろう。
「雅美が転校してくる前に、ちょっと接点があって。一目惚れして告った」
いずれバレると思ったから、俺は正直にそう言った。由香は唖然とした顔で俺を見つめている。
「由香?」
俺が声をかけると、ハッとして身を乗り出して来た。体育の時の申と充みたいな、好奇心に満ちたキラキラとした目をこちらに向けてくる。
今もまだ残っていた他のクラスの女子生徒が、不機嫌な顔でこちらを睨む姿が目の端に映った。
去年、俺が告白を断った子だった。
「その話、帰りながらでいい?」
「うん! めっちゃ聞きたい!」
睨まれていることにも気づかずに、由香はワクワクと帰り支度を始めた。というか、秒で終わらせていた。そのため、俺は彼女を待たせないように急いで支度を終わらせる。
俺と由香の家は真逆にあるので、俺は遠回りをして帰ることにした。
「で? どこで知り合ったの? いつ告白したの? 返事はもらったの?」
怒涛の質問に、俺は思わず苦笑いを浮かべる。
「そんな一気に答えられるわけないだろ」
「あ、ごめん。超気なっちゃって!」
「だろうな」
目を見れば分かる。しっかり者でクールに見える由香も、恋バナが好きとかいう女子らしい一面があるようだ。
申達にしたのと同じ話をしたところ、彼女はやはりキラキラとした瞳で、楽しげに「私も協力するから!」と宣言するのだった。
※先日の近況ノートでの報告を忘れてしまったのですが、今回も登場人物紹介を更新しております。申し訳ありません。
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