これは誰かの物語 〖更新中〗

〜君で悩む物語〜

side雅美-①

 私、市川雅美が都立志野原学園に編入して、数日が経った。


「おはよう! 雅美ちゃん!」


 仲良しくしてくれているクラスメイトは、学級委員の古屋ふるや由香ゆかちゃんだ。


 彼女は、先生にも頼られる優等生らしい。先生に頼まれて、私の校内案内も彼女がしてくれた。


 それをきっかけに、よく声をかけてくれるようになったし、仲良くなれたとも思う。


 私が最初に見た時の印象も、眼鏡をかけていて真面目そうな子だなあ。だった。二つ結びのお下げなのだけれど、毎日違う色のリボンをつけていて、とても可愛らしいのだ。


「おはよう。由香ちゃん」


 今日の彼女のリボンは、チェック柄のリボンである。


「ねえ、雅美ちゃん。今日、雅美ちゃんが転校してから初めての体育でしょ?」

「ええ。この前教えてくれた女子更衣室で着替えるのよね?」

「うん! 後で一緒に行こ!」

「ありがとう。是非」


 志野原学園の更衣室は、小等部の三年生から使えるようになるらしい。三、四年生の更衣室と、五、六年生の更衣室があって、共同で使うものになっている。


「ねー、今日の体育、男女合同で外集合だってー!」


 小等部の高学年から、男女別で体育の授業を行うことになっているらしいのだけど、たまに合同で体育を行う日があるみたいなの。


 うちのクラスに入ってきて、伝令を伝えてくれたのは、隣のクラスの女子生徒みたい。


 私が編入したクラスは、六年B組。お隣のA組には、春山涼くんもいる。


 体育では二クラスずつ合同で授業を行っているので、男女混同の今日は、涼くんとも一緒だということになる。


 彼と一緒に授業を受けるのは初めてだから、私はなんだか緊張してしまう。そう思いながら座学の授業を受けていて、すぐに体育の時間になってしまった。


「今日の体育は、ホームルームで行うレクリエーションの練習になります!」


 と、A組のクラス担任の先生が宣言した。毎週、全校生徒が一斉に同じ時間に、ホームルームを行うことになっているらしい。そのホームルームで、小等部の生徒は定期的にレクリエーションを行っているのだとか。


 今回のレクリエーションは大縄跳び。体育は苦手じゃないのだけど、レクリエーションに参加するのは初めてだから、私は楽しみな気持ちと、緊張で不安な気持ちが入り交じっている。


 まずはウォーミングアップで、個人個人が縄跳びの練習をする。それから、大縄飛びの列を話し合って決めて、次の授業から全体練習に入る。という流れみたい。


「由香」


 私は、個人練習でも由香ちゃんと隣合って跳んでいた。少し休憩しようと思って、グラウンドに降りるための階段がある端の方に寄ったら、涼くんが由香ちゃんに声をかけてきた。


「涼くん。どうしたの?」

「今日の委員会もレクについての話し合いなんだってさ。で、今日はいつもの場所が職員会議で使われるから、多目的室でやるんだって」

「え? そうなの?」

「うん。さっき職員室で聞いた。他の委員にも伝えとけってさ」


 涼くんはそう言うと、肩を竦める。


 私もずっと、涼くんのことを真面目そうな人だなって思っていたんだけど、その通りで、彼は先生から推薦を受けて、A組で学級委員をしているみたい。


 つまり、由香ちゃんと同じ委員会。気安く話しているところを見ると、結構仲もいい感じなのかしら。


「雅美は初めてのレクだよね」

「へ?」


 こちらにまで声をかけてくるとは思わなかった。私はぼーっとやり取りを眺めていただけだったから、驚いてしまう。


「クラス対抗ではあるけど、お遊びみたいなものだし。楽しんでね」

「え、あ……う、うん」


 私は涼くんに対して戸惑ってしまい、返事が挙動不審になってしまった。


 声をかけられて驚いたこともあるけど、告白をされてからは、直接言葉を交わすのが初めてだったのだ。チャットでは普通に接せられるのに……。


「…じゃあ、俺友達のとこ戻るね。由香、また後で」

「また委員会でね」


 涼くん、私が緊張していることに気がついたかな? 私の顔を見たらすぐに行ってしまったから、きっと気づいて気を遣ってくれたのかもしれない。


 そう思ったら申し訳ない気持ちになった。けれど同時に、涼くんから告白してきたのに、私の方が緊張しているという事が、なんだか悔しいと思ってしまった。


 私はチラッと由香ちゃんを見ると、涼くんがどんな人なのか、聞いてみることにした。同じ委員会だし、さっきの会話を見るに、仲もいいんだと思ったから。


「え? 涼くん? 凄く優しいよ。誰とでも仲良いし、結構頼りになるし」

「そっか。何となくわかるかも……」


 私も、引越しの片付けを手伝ってもらったし。お姉ちゃん達や妹のららとも、すぐに打ち解けていた。


「あ、あと結構モテるのよねー。別のクラスの子なんだけど、涼くんが目当てで学級委員になった子もいるのよ」


 由香ちゃんがコソッと私に耳打ちをした。それを聞いた私は、やっぱりプレイボーイなのかな? と、つい疑ってしまう。


「不思議なことに、一度も彼女いたことないけど」

「そうなの?」

「うん。気持ちがないのに付き合うのは悪いからって、みんな断ってるみたい。でも、そんな硬派なところが素敵って言う子もいるし、ますますモテるようになっちゃったのよねえ」


 そうだったんだ……。涼くんってやっぱり、印象通りの優しい真面目な人なのね。散々失礼なことを考えていた私は、心の中で涼くんに謝った。


「モテると言えば、うちのクラスにもモテる人いるけどね」


 由香ちゃんが視線を向けたのは、うちのクラスでかっこいいと評判の男の子。いつも女の子と一緒にいるから、彼こそプレイボーイってやつだ。今も、女子生徒三人に囲まれて縄跳びを跳んでいるし。


「顔がいいから涼くんよりもモテるんだけど、私は真面目な人の方が好きだから、涼くん派」

「え? す、好きなの……?」


 せっかく仲良くなった友達が涼くんの事を好きだったら、彼に告白をされてしまった私はどうすればいいんだろう。


 そう思って、私は物凄く不安な気持ちになった。


「ううん。私、年上好きなのよ」

「え? そ、そうなんだ」


 涼くんはしっかりしてるけど、年上ではない。由香ちゃんにとっては、恋愛対象外。だと由香ちゃんは続けて言った。


 それを聞いた私は、ほっと安心する。


 それと同時に、由香ちゃんも大人っぽいし、確かに年上の男の人が似合うかも。と、友達でつい想像をしてしまった。


 そのせいで、今度は妙にドキドキしてしまったので、困った。

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