side美江-②

 桜井くんと昔話だったり、学校に慣れたかどうかだったり。


 私達は色々な話をしながら帰り道を歩く。


「あれ? もしかして美江ちゃん?」

「え……?」


 桜井くんと話していて、すごく楽しかったんだけど……。聞き覚えのある声が耳に入ったら、私は途端に緊張してきてしまった。


かなめ先輩……」


 中学時代の野球部の先輩で、今はスポーツに力を入れている私立の高校に通っている。二年生。


「こんにちは。今日たまたまこっちの方に来たからグラウンド覗いてたんだ。見てたのは中学野球部だけど」

「そうだったんですね……。あの、そ、そちらは?」


 要先輩の隣にいるのは、誰の目から見ても美人な女の人。大人っぽくて、髪の毛がサラサラしていて清潔感がある。


 素敵な人だな。と思って、失礼だと分かっていたのに、ついじろじろと見てしまった。


「あ、こいつ俺の彼女。高校の同級生なんだ。美江ちゃんと同じで野球部マネージャー!」

「そ、そうなんですか。私、志野原の野球部マネージャーで…山田美江です。よろしくお願いします」

「私は白峰しろみね麗華れいかです。今度、交流戦組めるといいね。よろしくお願いします」

「ぜ、是非……。そうなったらうちの監督も喜びます。あ、えっとえっと……。彼、まだ入部してないんですけど、野球部に入ってくれる予定で。うちの転校生の桜井くんです」


 私がたどたどしい言葉で桜井くんを紹介すると、桜井くんがぺこっと慣れた様子で自己紹介をした。


「へえ。かっこいい子だね」

「あ、ありがとうございます。先輩こそ、身体付きがしっかりしていてかっこよくて、憧れます……」


 桜井くんと要先輩が会話を始めたから、私は綺麗な先輩の彼女さんと向き合っている。


 彼女はオーラのある美人というやつで、私はなんだか緊張してしまった。


 要先輩って、こういう大人っぽい人が好みだったんだ……。


「志野原の野球部ってどんな感じ?」

「えっと…雰囲気は明るいです。もちろん、本気で野球をやってる人しかいませんけど、楽しもうってスタンスの方が強いので」


 要先輩はもっとちゃんと、プロを目指すような野球をしたいから、野球が強い学校に進学したんだよね。要先輩が今通っている高校は、甲子園にも何度か出場している高校だし。


 そう考えたら余計に緊張してきちゃった。それに……。


 私は白峰さんを見て、落ち込んでしまう。比べるとか、そういうものじゃないって分かってるけど。


 私は中学時代、要先輩のことが好きだった。彼女を前にすると変に意識しちゃって、そんな自分が嫌になるなあ……。


「要の言う通り、美江ちゃんって可愛いね」

「えっ!?」

「中学の頃の話を聞くと、よく出てきたのよ。美江ちゃんの名前。野球部の癒しだってね」

「そ、そんな…。私なんか……」


 要先輩がそんなことを言ってくれていたなんて知らなかった。いけないと分かっていても、ドキドキしてしまう。


 人の彼氏なのに、気持ちが再燃しそうだ。告白するのが怖くて逃げたくせに……。あの時は想ってくれていたのかな。なんて……自分に都合のいいことを考えてしまう。


「ドジって失敗ばかりしてましたから。ご迷惑しかかけてませんし…」


 本当に、地面に置いてあるボールの入ったカゴをひっくり返してしまったり…全員分のタオルを貴重品と一緒に仕舞って二度手間をかけさせたり……。


 私は中学時代に色々とやらかしていた。


 その度に要先輩がフォローしてくれたから、それでだんだん惹かれていって……気づいたらもう、どうしようもないくらいに好きになっていたんだっけ。


 またこんなことを考えてしまって、嫌だなあ。


「白峰さんのように落ち着いている女性の方が、きっと癒しですよ。何より、白峰さんは先輩の彼女さんですもん」

「ふふ。そうだと嬉しいわ」


 私はにこにこと、無理やり笑うしかなかった。


「じゃあ、機会があれば本当に練習試合、出来るといいわね監督に伝えておきます」

「こちらこそ。その時はお手柔らかにお願いしますね……」

「貴重なお話ありがとうございました」

「こちらこそ。楽しかったよ。またね」


 そう言って去っていく二人はお似合いだった。要先輩もだけど、白峰さんも身長が高くて、モデルみたいだから。


 それにしても…要先輩は、昔と変わらない爽やかな笑顔だったな。


 なんて……またこんなことを考えて、私って本当に駄目だなあ。


「ごめんね。長話しちゃって」

「ううん。こっちもお話してたし……。要先輩とは何を話してたの?」

「……うん。まあ、野球の話しかしてないけど。あ、昔の山田の話もちょっと聞いた」

「ええっ!?」


 ドジばっかりのあの時のことを聞いたのかな? それは恥ずかしいかも。


「気配りが上手くて、一生懸命だったって。褒めてたよ。凄いな。山田」

「そ、そんなこと……」


 ああ。嫌だ。思い出したくないのに、好きだった時の気持ちがじんわりと浮かび上がってくる。


 しっかりしないといけないのに……。桜井くんに気を遣わせたくないし。


 それなのに、私は泣きそうだった。


「ね、山田。ちょっと公園寄ってもいい?」

「え? うん」


 私の家の近所の公園。昔はよく遊んでた公園だし、今も学校帰りによく通るけど。いつもは入口をスルーしているから、中に入るのは久しぶりだった。

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