side新次-③

 ベンチで話している時、山田が少しだけ寂しそうな顔をしていたのが気になって、俺はスポーツ用品店に向かう道中、つい彼女を見つめてしまっていた。


 そのせいで、また隣を歩く澤田から、からかい半分の視線を受けてしまう。


「本当に違うよ?」


 言い訳にしか聞こえないと思うけど、俺はそう言うしかない。俺の言葉を信じているのかいないのかわからないけど、澤田はただ大人しく相槌を打っていた。


「ここがスポーツ用品店。やっぱり、桜井くんは野球のコーナー?」


 山田が笑顔で俺を振り返るので、さっき寂しそうに見えたのは気のせいか。と俺は考えを改める。


「うん。買うわけじゃないけど…売ってる物を見たくて」


 部活の見学に行かせてもらうのは来週の話だし、今はまだ見るだけだ。


「前にいたところではどこのポジションだったの?」

「サードだったよ」

「ちょっとぽいかも。腕が長いからかな? 偏見だけど……なんだか肩が強そう。」

「確かに、腕周りガッチリしてるよな」

「そう?」


 自分だとあまりわからないな。筋トレは毎日していたけど。うちの学校はエンジョイ勢が多かったし……。


「今のサードは三年生だから、もしうちの野球部に入ってくれたら秋から頼りになりそう」

「他にサードできる人いるんじゃないの? 志野原の野球部ってかなり強いよね?」


 東京の予選大会で毎回上位まで残っているイメージの高校だ。都立だが設備が私立並みなのだとか、前に山田からも聞いた気がする。


「いるけど……。これも偏見。桜井くん、高身長で身体の作りがしっかりしてるから。スポーツ得意そうって思って」

「ハードル上がるじゃん」

「えへへ。ごめん」


 山田はそう言って苦笑した。困り眉だが、あまり悪いとは思っていなさそうだ。偏見でも嬉しいから、いいんだけどね。


 暫く商品を眺め、俺は満足する。


「ありがとう。もういいよ」

「はーい。次どこ行く?」


 最初はみんなも商品を眺めたり手に取ったりしていたけど、既に飽きていたらしい。待たせてしまったのは申し訳ないな。


「商店街も案内する? 桜井くん、料理するなら安いお店知っといた方がいいよー?」


 澤田の提案が採用されて、俺たちは駅ビルから外に出ると、五分ほど歩いた。


「結構長いね。ここの商店街。」

「ふふ。でしょ? 八百メートルもあるんだよ!」

「そうなんだ。賑わってるし…いいな。こういう雰囲気」


 地元にあった小さな商店通りに雰囲気が似ている。


 向こうの商店通りはこっちと違って、百メートルあるかないかの小さな通りだったけど。


「私のお気に入りのお店もあるんだ。カフェなんだけどね、チョコレートケーキが美味しいの!」


 山田が無邪気な笑顔でそう言った。彼女の指をさす方向にそのカフェがあるのだろう。


「俺もチョコレートケーキ好きだし、行ってみたいな。なんて名前のお店?」

「アンジュ・ノワールってお店。チョコが好きならおすすめだよ」

「その店の売りがショコラなのよね。私も好きよ」

「かおりは美味しいお店、たくさん知ってるから……迷ったらかおりに聞くと外れがないよ」


 流石、澤田。父親が料理人なのもそうだけど…やっぱり情報集めが趣味なだけあるよな。


 少し歩くと、山田の言っていたカフェの前だった。外装も綺麗で、女性が好きそうな可愛らしいメニュー看板が外に出ている。


 今日はご飯食べたばかりだから入らないけど……、今度来てみようかな。と思った。


 商店街にも色々な店が入っていて、澤田が言うように魚や野菜がスーパーで買うよりも安いところがいくつかあった。しかも新鮮だ。


 商店街に入っている店もあらかた案内してもらったら、解散の流れになった。


 楽しかったからか、あっという間に一日が過ぎていった気がする。


「今日は案内、ありがとうな」

「ううん! 今度は普通に遊びに来よ」

「今度はカラオケとかゲーセンとか。娯楽施設も行こうぜ」


 カラオケ施設は何件か見かけたけど、ゲームセンターは見なかった。近くにあったのかな。


「じゃ、私向こうだから!」

「俺は寄るとこあるから、ごめん。またな!」


駅前で別れて、あっという間に俺と山田の二人だけになってしまった。


「山田も、今日はありがとう」

「ううん。まだまだ紹介したいところたくさんあるから、また今度来ようね」


 流れで俺たちも解散かな。と思ったんだけど、帰り道が途中まで一緒みたいだから、二人で並んで歩いている。


「ここのスーパーでしょ? 桜井くんが買い物に来るところ」

「そうそう。ハツカドー」


 ハツカドーは全国に展開するスーパーだから、千葉にももちろんあった。と言っても、俺が利用してたのは千葉にしかない地元のスーパーなんだけどね。


「山田の家ってどの辺? よかったら送るよ。」


 辺りはまだ明るいけど、どうせ同じ道を通るなら送ってあげた方が俺も安心する。


 何度も思っていることだけど、山田は可愛いから。それに、この先にある学校のそばはかなり大きい通りなので、車も心配になる。


「気にしなくていいのに。でも、ありがとう」


 山田はそう言うと、少しだけもじもじと躊躇いながら、俺の顔を見てくる。


 不思議に思って見つめ返すと、また照れくさそうにして、小さな声で言った。


「せっかくまた桜井くんと会えたから……もうちょっと長く一緒にいたいなって思ってたの」


 正直ドキリとした。なんて可愛いことを言うのだろうか。と思ったし、勘違いしそうにもなった。


「そうだね。俺も、もっと山田と話したいかも」

 

 俺がそう言うと、山田はもっと可愛らしい笑顔を見せた。


 山田が笑ってくれる度に昔を思い出す。笑顔が好きだったな……とか。そういうの。

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