side新次-②
約束の土曜日。俺は十時になる十分前に到着し、改札付近にいる山田と澤田に声をかけた。
「おはよう。」
「おはよう。桜井くん。」
「私服もお洒落ねえ…流石イケメン。」
お洒落とイケメンって関係あるのだろうか…。まあ、褒められて悪い気はしないけど。ただ、相手が異性だから少しだけ照れくさい。
「ありがと…。二人も、私服姿似合ってるね。」
俺がそう言うと、山田は頬をほんのりと染め、澤田は目を丸くした。
「対応までイケメンかっ!」
褒められたから褒め返しただけなんだけどなあ。それに、本当に二人とも似合っていると思うし。
山田は大人っぽい落ち着いた雰囲気のカジュアルなワンピースを着ていて、澤田はオフショルと短パン。二人の性格にも合っている気がする。
「あーあ。もっと分かりやすく照れてくれると思ったんだけどなあ。」
「なんだよ…それが目的なのか?」
褒められたのは本当に嬉しかったのに。からかうための嘘で、ぬか喜びなのだろうか。それは少しだけ悲しいな。
「うーん…。そんな姿が見れたらラッキー!程度…?」
「桜井くんのセンスがいいなって思ったのは本当よね?」
「もちろん!」
「そう?ありがとう。」
慰められているのか、本当なのかはイマイチわからないけど、まあいいや。俺はそう思って、きょろきょろと辺りを見回した。
「三須はまだなんだよな?」
「うん。あと五分あるし…ゆっくり待っていよう?」
「そうだな。」
「私、ぴったり到着にバニラアイス一個。」
と澤田がそう言って、ここから見える駄菓子屋を指さした。
「え。じゃあ…私は二分前にチョコレートアイス。」
山田もそれに乗っかって、二人して俺の方を見つめてきた。
「じ、じゃあ…一分遅刻にあずきバーで。」
その直後に三須は到着し、時刻は九時五十八分。見事に山田の勝利だった。
「…本当にアイス食べるの?」
「じゃあ、まずは駅の近くにあるお店から案内しちゃおっか。駅ビルにも後で入ろうね。」
「あ、ああ…うん。ありがとう。」
「何?何の話?」
三須だけ話について来れていないので、俺が掻い摘んで説明すると、俺が遅刻する予想を立てたのが気に食わなかったようで軽く唇を尖らせていた。
「山田のチョコアイスってこれ?」
駄菓子屋のアイスが入ったショーケースを覗いて、俺は山田が言っていたチョコレートアイスと、自分の分のアイスを手に取った。
「俺はソーダアイスがいい。」
「はいはい。遅刻とか疑ったお詫びに買いますよー…。賭けには負けてるけど、澤田のも払おうか?」
「いいわよ!そんな気ぃ遣わなくても。」
「そう?」
澤田が遠慮したので、三須が言っていたソーダアイスも手に取って三つ、駄菓子屋の人に渡した。こういうお店ってお婆さんがやってるイメージだったけど…意外と若い人だった。うちの親と同じくらいの年齢に見えるおばさんが会計をしてくれる。
「今どき珍しいでしょ?駄菓子屋。」
「田舎でもあんまり見かけないもんな。そもそも子どもの数が少なかったりするし。うちの町には昔からやってる駄菓子屋があるけどね。隣の酒屋と併設だからか結構繁盛してるよ。」
今でも、子どもも大人もよく集まる店だ。俺も昔はよく行っていたし。大人と混ざって、外に置いてある射的ゲームで遊んだりもした。
なんだか懐かしい気分になってしまった。そのついでで、少しだけ世間話として子ども時代の話をして、その後はここから見えるお店の説明をしてもらった。
「あのお店が八百屋になってて…。多分、桜井くんが行くスーパーってあの辺にあるでしょ?」
「うん。」
山田の指さす方向を見て、俺は頷く。
「向こうに行くと商店街があるよ。」
「商店街も結構色々あるんだぜ。」
「スーパーよりも安い食材とかね。例えば…。」
澤田が言った値段が、破格の値段で少し疑ったが、情報通の澤田が言うなら信憑性があるのかも。とも思う。
「説明してる間にみんな食べ終えたし、次は駅ビルの案内に行こ。」
駄菓子屋の外に置いてあるゴミ箱に食べ終えたアイスの残骸を捨てると、俺たちは駅ビルの中に入る。
「食材とかはやっぱり商店街の方が良いから…洋品店や雑貨屋さんなんかを案内するね。」
「商店街にはカフェとかのが多いから…上の階の飯屋もお昼になったら案内しようぜ。」
山田と三須が先行して、俺と澤田はその後ろを着いていく。てっきり、いつもハイテンションな澤田が先陣を切るものだと思っていたので、俺はちらっと俺の隣を大人しく歩いている澤田を見た。
彼女は、山田の楽しそうな表情を見てなんだか優しい笑みを浮かべている。山田の笑顔を見ると俺も嬉しい気持ちになるから…澤田がそういう表情をするのもわかるな。とそう思った。
「新次くんってさ…。」
俺が澤田を見ていたら、向こうもこちらを横目に見てくる。バッチリと目が合って、俺は思わずドキリとした。悪いことがバレた時の気分だ。別に悪いことはしてないのに…。
「何でしょう…?」
「美江のこと好きっしょ?」
「……ん?」
距離は遠いけど、本人もいる前でそういうことを聞かれるとは思わなかった俺は、一瞬思考が停止してしまった。
「え、ここで聞く?」
と思わず聞き返してしまう。
「今の美江は新次くんに楽しんでもらうことしか考えてないもの。聞いてないわよ。」
「えー…。まあ、いいけど。好きだったのは昔の話だよ。初恋の相手だった。」
俺が正直に答えると、澤田は目を丸くしてこちらを見つめていた。
何かおかしいことを言っただろうか…。俺は少々不安になって、また思っていることと同じことを聞いた。
「素直に答えてくれたのにも驚いたけど…。本当に今は好きじゃないの?」
「え?」
言われている意味がまるで分からなかった。
俺には恋人がいた時期もあるから、自分の気持ちくらいは分かっているつもりだ。
今は山田のことは、単なる友人で初恋
彼女は想像通りの美人に成長していた。言うなれば、山田美江はクラスのマドンナである。そんな彼女に全くの無感情でいると言うのは、男子には難しい話だと思う。
だから、俺がドキッとするのも恋と言うより、生理現象…のようなものだと思う。
「今は誰にも恋とかしてない…。本当に。」
自分のことだから、本当にしていないとわかるはずなのに…何故か澤田に言われたことが頭から離れてくれなかった。
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