〜また君に惚れる物語〜

side新次-①

俺、桜井新次が志野原学園に転校してちょうど一週間が経った。新しい教科書が届いたので、隣の席である山田美江に面倒をかけ続けていた授業からもやっと卒業できる。


「山田。今まで教科書ありがとうな。昨日届いたから、もう大丈夫。」

「そっか。桜井くんと机をくっつけてお話するの、ちょっと楽しかったんだけどね。」


なんて言って、彼女は笑う。


転校してきて思ったことだが、彼女は昔よりもずっと明るい性格になったようだ。ただ、笑顔は昔から変わらず眩しい。初恋の相手ということもあって、ドキドキしてしまうこともしばしば…。


「そういえば、制服も届いたね!似合ってるよ。」

「ありがとう。今まで一人だけブレザーだったから…ちょっと安心した。」


志野原学園の制服は、女子はセーラー服で男子は学ランだ。小等部だけは男子もセーラー服らしい。夏のこの時期だと半ズボンも選択出来るそうで、半ズボンを穿いた小等部の男の子をちらほら見かける。


最近どんどん暑くなるから、少しだけ羨ましいんだよな。中学、高校では普通に長ズボンしかないから…。


「……わっ!」

「きゃっ!?」「うわぁっ!」


二人で話していたら、横から急に大きな声を出されて驚いた。毎度のことだが、山田の友達の澤田かおりは人をからかうことが趣味なようだ。この一週間で、俺は何度も驚かされている。


「今日も仲良しねー。妬けちゃうわ。」

「もーかおりってば!驚かさないでよっ!」

「びっくりしたー。澤田。おはよう。」

「おはよ。新次くん、学ランになったんだ。かっこいいじゃない。」

「あ、ありがとう…。」


山田のプリプリとした怒りは放っておいて、澤田は俺に話しかけてくる。むくれてしまっている山田は何だか可哀想だった。二人とも仲がいいので、多分喧嘩になることは無いと思うのだが。


「おっはー!!」

「うわっ!?」


俺は本日二度目の吃驚の声を上げる。


三須みすっ!?」


彼は三須浩二みすこうじ。クラスのムードメーカー的な存在で、底なしに明るい。そしてお調子者だったりもする。しかし、俺が転校してからよく声をかけてくれるのもこの三須なので、俺は彼のことを友人として好ましいと感じている。澤田と同じでおどかしてくるけど。


「普通に声かけてくれよ。」

「へへへ。澤田の時もいい反応だったから、つい。」


見てたのか。俺はじと目で彼を見つめ、文句を言った。


「ごめんて。おはよ。新次!」

「ああ。おはよう。」


彼はクラスの男子の輪にいることが多かったので、俺もかなり早い段階でクラスに馴染むことが出来た。ありがたい限りだ。


授業が終わって昼休み。最近は三須に混じってご飯を食べたりすることも多いのだが、今日は山田に誘われて、澤田と三須も含めた四人でご飯を食べている。場所は中等部に通う春山学くんに教えて貰ったあの場所だ。


「桜井くんとご飯を食べるのは初日以来よね。」

「そうだな。」

「私は新次くんと食べるの初めてかも!」


四人でお弁当を広げると、俺は澤田の弁当に思わず釘付けになってしまった。


「凄っ。澤田の弁当、めっちゃ綺麗なんだけど。」

「ふふ!そうでしょー?私の手作りよ。」


所謂キャラ弁当と言うやつだった。俺の妹が好きなキャラクターで、アニメに出てくるハムスターだ。


「かおりは料理上手なのよね。」

「朝からこんな凝ったの作ってきてんだ。すげえな。」


俺も手作りの弁当だが、朝からこんなに凝ったものは作らない。昨日の夜ご飯の残りとか…ウインナーとか卵焼きとか、無難な弁当だ。


「新次も手作りだろ?俺あれ好きなんだよな。前にくれたミニハンバーグ。」

「ありがと。また今度作ったら多めに入れてくるよ。」

「ラッキー!言ってみるもんだな。」


なんて言って、三須は笑う。少し前に彼にあげたハンバーグ。実はソースを自分で作ったから、褒めて貰えると嬉しいのだ。


俺たちは雑談をしながらお弁当を食べ進め、食べ終わったあともその場に留まって会話を楽しんだ。


「そうそう。用事があったの。」

「何?」

「そろそろ引越しの片付けとか…落ち着いたかなって思って。今週の土曜日、良かったらみんなでこの辺を案内しない?」


山田の提案に、澤田と三須の二人も賛成してくれた。俺もその日は空いているし、是非お願いしたい。


「みんなありがとう。土曜日、よろしくね。」

「うん!待ち合わせはどうしよう…。駅の場所はわかるかしら?」

「うん。わかるよ。」

「それじゃあ、そこに十時でどう?」


俺たちは約束を取り決めると、次の授業に遅れないように教室に戻る。


俺はまだ学校への道と、近所のスーパーにくらいしか行ったことがないから…土曜日が楽しみだ。

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