side雅美-③
涼くんは戸惑っているみたい。言葉を探しているのもわかる。
でも、訂正する気はなかった。どういう意味で仲良くなりたいって言ってくれるのか、私も知りたいんだもの。
「…し、信じないかもしれないけど……。一目惚れだったんだ」
「…え?」
ええっ!? 可愛いって沢山言ってくれたけど…それって、もうしかして一目惚れだったから? じゃあ、仲良くなりたいっていうのも…そういう意味? ど、どうしよう。こんなに真っ正直に気持ちを伝えられたことなんて無いし、嬉しいけど!
嬉しいけど……。私は、涼くんのことをあんまり知らない。私は残念ながら、一目惚れの経験は無いし…分からない。
出会ってまだ二日……。彼のことはいい人だと思うけど、恋はしていない。
連絡先、どうしよう。からかってるつもりで言っているなら、断ろうと思っていた。でも、涼くんはきっと、本当に私を好きって思ってくれている。
真っ直ぐにこちらを見つめてくる瞳を見れば、嘘を疑うことなんて出来なくなるのだ。
「あのさ。えっと、付き合って欲しいとかじゃないんだ。今朝までお互いに名前も知らなかったんだし、困るだろ? ただ、友達になれたら……。少しでも雅美と仲良くなれたら、嬉しいと思っただけで」
多分、それも本心。涼くんの言葉は全部真っ直ぐだと感じた。素直な人なんだと思う。
「そりゃ、いつかは友達以上になれたら嬉しいと思うけど。……距離、近すぎたんならごめんな。連絡先のこと、嫌だったら遠慮なく断って」
嫌なわけじゃなかった。ただ少しだけ、プレイボーイなのかな。なんて、疑ってしまっていたから。からかいの延長だったりしたら、それは嫌だったってだけ。そうじゃないことはもうわかっているし、私は全然嫌だと思っていない。
「友達でいいなら、交換してもいい」
「え? 本当にいいの?」
「ええ」
「で、でも、雅美って優しそうだし……大人しそうだし……断れなさそうって言うか。本当に嫌じゃない?」
涼くんのその言葉に、私は少しだけムッとする。
「私、嫌ならハッキリ断れるわ。それとも、やっぱり一目惚れって言うのも嘘で、連絡先もいらないの?」
「いる!」
彼は食い気味にそう言った。声が少し大きかったから、通行人にジロッと見られてしまって、恥ずかしかった。
それは涼くんも同じだったみたいで、赤い顔をして俯いている。大人しくなった姿は、叱られた犬みたいで少しだけ可愛かった。
「ごめん。大きい声……」
「ううん」
私たちは、とりあえず無言で家まで帰る。
たい焼きを食べ終えたあと、ほとんどの片付けが終わったために、涼くんと学お兄さんは家に帰ることになる。
だから、帰ってしまうその前に、私は涼くんに手紙を渡した。
「あらあら?」
雅代お姉ちゃんがにやにやといやらしい笑みを浮かべているけど、私は無視をした。
「またね」
無視したけど恥ずかしかったから、私は短く挨拶をすると、ささっと部屋に籠る。
その数分後に、チャットアプリにてメッセージが届いた。家族以外では初めての、日本人のお友達。私はハーフだったから、フランスでも友達は少なかった。なので、ほとんど初めての友達かもしれない。
『今日は突然、色々とごめん。ありがとう』
とだけ書かれた文章が送られてくる。
涼くんは印象通り、優しくて素直で真面目な人なのだろう。随分としおらしかった。
『驚いたけど、気持ちは嬉しいわ。友達からよろしくね』
と打ち込んで送信してから、私はとあることに気がついた。
しかし、『既読』の文字が着いてしまったので、諦めざるを得ない。また顔が熱くなってしまったので、やっぱり涼くんは……。と、私は少しばかり恨めしく思ってしまったのです。
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