side涼-②

 俺は、雅美への気持ちを素直に認めることにした。彼女に一目惚れをしたのだと。


 そうしたら、自然と吹っ切れたように……恥ずかしい。という気持ちよりも、可愛いなあ。と思う気持ちの方が強くなる。


「凄く可愛いです」


 雅美が制服姿で出てきた時、羞恥で赤くなった顔を見てドキリとした。そんな姿も可愛いし、制服姿も本当によく似合っていた。


 夏だから、淡い水色のセーラー服。袖には学年カラーの青色ラインが入っている。胸元にはボタンで留めるだけのネクタイがあって、それにも学年カラーのラインが入っている。小等部のネクタイは、目立つように、スカートに軽くかかるくらい大きなネクタイになっている。スカートの色は白で、裾の方に黒のラインが入っている。


 ちなみに、冬はセーラー服の色が薄灰色になって、スカートの色も黒地にラインが白と逆の色になるのだ。


「もう! 涼くんのばか」


 素直に褒めたら、雅美は恥ずかしそうにしてこちらを睨んで来た。睨まれてもなお可愛いのだが、嫌われたくはない。


 俺は謝って、もう何も言わないと誓った。


「あ、それと……。彼女とは隣人で、恋人では無いです」


 最後に店員にも、そう説明をしておいた。


 雅美の顔が真っ赤だったのは、わざわざ俺にお披露目したこともあるのだろうが、きっと大元は彼氏と間違えられたからだろう。


 その予想は当たっていたらしく。雅美は照れた顔で、こくこくと何度も頷いていた。確かに俺は彼氏では無いのだが、勢いよく肯定されると少しだけ傷つくなあ……。


 その後は、すぐに制服を受け取ってビルを出る。家に帰る途中、俺と雅美は行きに話した通り、たい焼きの屋台に寄った。雅美の家には人が多いので、結構な量を買っている。


「どっちか持つよ?」


 制服が入った大きめの紙袋か、たい焼きが大量に入った袋。どちらもそこそこの重量があるはずだった。


「いいの?」

「うん。俺、手ぶらだし」


 財布とスマホが、ズボンの後ろポケットに入っているだけなので、両手とも空いている。俺が両手を差し出すと、雅美はたい焼きの入った袋を渡してきた。


「ありがとう。あとで、涼くんと学お兄さんも一緒に食べよ」

「え? 俺らの分も買ってたの?」


 沢山買っているな。とは思っていたが、まさか俺たち兄弟の分まであるとは思わなかった。


「ええ。手伝ってくれたお礼。特に涼くんには道案内までして貰っちゃったし」

「気にしなくていいのに」


 むしろ、雅美といられることが褒美のようなものだった。きっと素直にそれを伝えたら、可愛らしい顔で怒るのだろうな。そろそろ本当に嫌われそうだから、言わないけど。


「それなら、たい焼きのことも気にしないで。みんなで食べた方が美味しいと思うから買ったのよ」

「そっか。じゃあありがたく。いただきます」

「bon appétit!」


 おお。フランス語? 多分、雅美が前までいたって言うフランスの言語だろうけど……。凄く綺麗な発音。日本人の耳を持つ俺には、なんと言ったのか全く分からなかった。


「どういう意味?」

「うーん……。召し上がれ? かしら。楽しく食べようね。とか、どうぞお食事を楽しんで。とかって意味よ」

「へえ。流石帰国子女だな」


 と俺が褒めると、雅美はちょこっとだけ自慢げに笑った。最初は大人しい印象だったけど、結構くるくる表情が変わって、面白い。


「というか、日本語も上手いよね。やっぱりお母さんに教わったの?」

「ええ。それに、元々は日本にいたらしいって話したでしょ? うちの両親って、日本で出会ったみたいで……。お父さんも日本語ペラペラなのよ」

「そうだったんだな」


 まだ、雅美の父親には会ったことないけど…どんな人なんだろう。ザ・フランス人って感じかな。外国の人って、背が高いイメージだから、想像すると少しドキドキしてしまう。怖い人だったらどうしよう。


 そんな関係じゃないけど、雅美のことを好きになったんだし、付き合いたい気持ちは当然ある。


 日本によくある、「娘はやらん」とかって、フランスにもあるのかな。いや、まだ友達になる段階だけどさ。


「涼くん?」


 俺が考えごとをしながら歩いていたから、雅美に不思議そうな顔で見つめられた。


 うん。やっぱり…せっかく好きになったんだから、仲良くなりたいよな。それに、昔から兄さんの焦れったい態度を見てきたから、余計に頑張りたいと思ってしまう。


「何でもない。雅美の親だから、仲良くなりたいなって思ってただけ」

「え? そ、そう……」


 雅美は照れて目を逸らしてしまった。しつこくして嫌われたり、怖がられたりするのは嫌だけど、もう少しだけ……。


「スマホ、持ってるよね?」

「え…私? 持ってるよ。」

「連絡先、交換しない? 俺、雅美ともっと仲良くなりたいし」

「……」


 雅美が戸惑った様子で、黙り込んでしまう。いきなり詰め寄り過ぎたかな?


「そ、その……。涼くんって、他の女の子ともこんな風に距離が近いの?」


 なんて言われてしまった。


 確かに俺は、男子も女子も関係なく友達になったら仲良くしているけど……。雅美に対する気持ちも態度も、それとは違う。




※明日、もう一話分更新します。よろしくお願い致します。

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