side沙江-①

 学校のお昼休みの時間。私、山田沙江やまださえは、幼なじみの春山学はるやままなぶの元へ、不貞腐れながらお弁当を持っていくところだった。


「相変わらず仲良いな」

「なんだかんだで、いっつも甘えさせてるもんなー」

「二人で楽しんでねー!」


 なんてからかわれながら、私は自分と学のお弁当を持って、学がいるであろう中庭に足を運ぶ。


 この学園の構造は特殊で、中庭が二階に存在する。それぞれの棟から入ることが出来るから、小、中、高の誰でも使いやすい。でも、窓からよく見えるので人気はあまりないみたい。


「学」

「お。来た来た。サンキュ」

「もう。サンキュじゃないわよ。先生怒ってたよ?」

「いつものことじゃん」


 学が四限目の授業をサボったせいで、幼なじみである私が何故か先生に文句を言われてしまったのだ。酷いと思う。


「あれ? ここで食うの?」

「違うの?」

「いや、俺はいいけど。お前友達は?」

「学にお弁当持ってきたついでだもん」

「ふーん。そう」


 たまには学と一緒に食べたい。そう思ったから、私は自分のお弁当も一緒に持って来た。


 私は不思議そうにしている学を放っておいて、さっさとお弁当を広げる。


ガチャ


 扉が開いて、中庭に誰か入ってきた。開いた方向からすると、多分高等部の先輩だと思う。


「ここが中庭よ。知り合いの子が言ってたんだけど、こっちに行くと死角になってるから、一人で落ち着きたい時はおすすめなんだって」


 聞き覚えのある声がして、私は思わず振り返る。


「お姉ちゃん!?」


 姉だった。美江お姉ちゃんはとっても優しくて、美人な私の姉。


 お姉ちゃんと一緒にいるのは背の高い男の人だ。この人もかっこいい。まるで芸能人みたいだ。と私は思った。


「沙江じゃない。学くんも一緒なんだ?」

「こんちは」

「こんにちは。学くん」


 学とお姉ちゃんが挨拶を交わしている。私はと言うと…知らない男の人に対して人見知りを発動してしまい、学の影に隠れていた。学が呆れた顔でちらっと私を見てくるけど、声をかける勇気は出ない。


 学の裾をぎゅっと掴み、綺麗な顔をした男の人を見上げる。


「あの、美江さん。そちらの方は?」


 学が小さなため息をついてから、そう聞いてくれた。私に気を遣ってくれたのだろう。


 学は昔から私を助けてくれる、ヒーローみたいな人だったから。私は学の優しいところが大好き。


「彼は今日転校してきた桜井新次くん。お父さんがうちのお兄ちゃんの上司なのよ?」

「長兄がですか? それとも刑事の…?」


 と学が首を傾げると、桜井新次…先輩が自己紹介をしてくれる。


「そっか。樹お兄ちゃんの上司が、桜井先輩のお父さんなんだね」


 桜井先輩の声や表情が優しいから、私も少し緊張が解けてきた。


 学の横に並ぶと、私も自己紹介をする。それに続いて、学も自分の名前を言った。


「よろしくね」

「「よろしくお願いします」」


 私たちは二人で頭をぺこっと下げる。顔を上げた時に優しい顔で笑っている桜井先輩の顔が見えたから、私は一層緊張が解け、安心した。


「彼、転校初日で……昼休みだって言うのに質問攻めにあってて可哀想だったのよね。だから、前に学くんが教えてくれたここを案内しようと思って来たの」

「あはは。ここいいですよ。廊下から見えないから。是非使って下さい」

「あ、ありがとう」


 学は少し体をずらして、桜井先輩が入れる隙間を作る。


 基本的に中庭は、全部の棟の窓から見えてしまい死角がないように見える。でも、体育館に繋がっている扉の傍、それも花壇の近くは壁と花壇に阻まれて、隠れることが出来るのだ。


 ……だから、学はよくここで授業をサボっているんだけどね。


「先客なのにいいの? ここ使っちゃって」

「もちろんです。沙江もいいだろ? お前、姉ちゃん大好きだし」

「うん! お昼にお姉ちゃんと食べるの久しぶりだね」

「ふふ。そうね」


 久しぶりにお姉ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べられる。それが嬉しいから、今日は屋上で学と食べることにしてよかった。と本気で思った。


「二人ともそっくりだね」


お姉ちゃんの笑った顔を横目に見ていた桜井先輩が、そんなことを言った。


「よく言われるわ」

「スタイルもお姉ちゃんに似たかったなあ」


 お姉ちゃんは出るところは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいるナイスボディだ。それに比べて、私は色んな意味で華奢。もう少し出っ張った胸が欲しかった。といつも思っている。


 私は段々落ち込んできてしまった。


「もうちょっと身長が高くなって、おっぱいももっと大きくなりたいし……」

「こらこら。男の子の前でそんな事言わないの」

「あぅ。ごめんなさーい……」


 お姉ちゃんに怒られてしまって、私は一層落ち込んでしまった。


「俺は沙江ちゃん、可愛いと思うけどな。歳下だからか、妹みたいっていうか……」


 と慰めてくれる桜井先輩は、やっぱり優しい人だ。私はすぐに元気を取り戻した。単純? ってよく言われるけど、そんなの知らないもん。


「あら、それって同級生の私は可愛くないってことかしら?」

「そんなこと言ってないでしょ」


 転校してきたばかりの桜井先輩とお姉ちゃんは仲がいいみたい。


 なんだか羨ましいな。そう思って、ちらりと学を見る。私も学ともっと仲良くなりたかった。


 でも、当の学は気にせずにお弁当の中身を口にしていた。




※一話分と近況ノートではお知らせしたのですが、今日の九時頃にもう一話更新させていただきます!よろしくお願いしますm(*_ _)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る