第11話 楽しみ方はいろいろ!イケメンパラダイス
穏やかな微笑みをたたえたシンジさんは、私を優しく支えて座らせてくれた。
「だいぶ、お疲れになったでしょう?まずは足をゆっくり休めてくださいね。お菓子もお茶も、すぐに用意しますからね」
シンジさんは柔らかく微笑んで、
私がお礼を言って一口含めば、お茶の程よい苦みと温かさが喉を通って
そこで甘みが恋しくなった私は、お菓子を一口食べてみる。
お菓子の優しい甘みがじんと、口の中にゆっくり広がっていく。
自分でも気づいていなかった疲れが、ゆるやかに
私を優しく見つめていたシンジさんは、ホッとしたように柔らかい表情をさらに和らげた。
「
うん、かっこいい。
この大人っぽいかっこいいシンジさんも、思えば今の私にとっては同世代なんだよね。
たしか、20代後半だったはず。
前に来た時は、シンジさんに対して大人の男性で素敵だなって思ってた。
若い頃、特に高校生くらいなんて、その頃、
優しくて穏やかで頼りになって余裕もある。
立場もあってお金持ちで、顔も
他の姫君からも黄色い声があがるのは当然で、シンジさんの文箱は恋文でいっぱいで、
まぁ、これだけのイケメン、
でも、シンジさんはいつも私を優先してくれて、シンジさんと仲の良い女性は私だけだと
シンジさんが私以外の女性と仲良くしてるのを見たこともないし、前の時に彼自身からそう言われたこともある。
めちゃめちゃ独占欲と優越感が満たされる。
こんなに完璧なイケメンが私のイケメンなんです。
私だけのイケメンなんです。
アラサーの私から見ても、同世代とは思えないほど頼りになるし大人っぽいし、なにより色気がパない。
けれど同世代だからか、前よりも緊張しないで接することができてる気がする。
大人の色気があって、とっつきやすいとか……もう最高かよ。
ヨダレを垂れ流さないように、そっと口元に湯呑みを当ててこらえた。
ゆっくりな時間を、シンジさんとヤマトとおしゃべりをしながら過ごしていた。
すると、ドカドカと廊下を歩く大きな足音が近づいてくる。
そして部屋の前で止まるやいなや、パンっと
「おいっ!!シンジ!!こんなとこでサボってんなよな!!」
いきなり開けられた襖と彼の声に驚いた私と、怒鳴りながら部屋に入ってきた彼の目が、パチリと合った。
私がいることを知らなかったようで、彼が動揺しているのが目に見えた。
困ったように、そしてバツが悪そうに彼は片手で自身の顔を覆ってから、
そして、私に向き直ると、本当に申し訳無さそうな表情でおずおずと声をかけてきた。
「あぁ……御神姫がいたなんて知らなくて……。驚かしたよな?わりぃ……」
先程の勢いはどこへやら、今にも消えてしまいそうな、か細い声で俯く。
しょんぼりとする姿は、まるで尻尾のたれた狼みたいで、めちゃめちゃ愛おしかった。
たぶん母性本能が爆発してる。
「全然気にしないで大丈夫です!クサナギさんに会えて嬉しいんですから!謝らないでください!」
クサナギさんとは、帝に仕える貴族で
彼とは、ここに戻ってきた最初の日以来、まともに会えていなかった。
クサナギさんとシンジさんは貴族で、特に帝を近くで守る側近の一人だから忙しい。
だから、ヤマトや鬼王たちとは違って時間に自由が少なくて、なかなかこちらから何の用のなく会いに行くのも難しい。
たぶん、彼らに言えば、いつでも来ていいと言うだろうけど少し気が引ける。
だから、こうやって偶然に会えるのはとても嬉しいんだ。
私が笑って言葉を返すと、申し訳無さそうにしている彼の表情も、少し和らいだ。
私の脳内で、たれていた彼の狼のような尻尾も、少しは元気を取り戻していた。
その元気も一瞬。
「脳筋のお馬鹿さん?女人のいる部屋にそうズカズカと入ってくるもんじゃありませんよ」
シンジさんがひどく小馬鹿にした様子でクサナギさんに言い放った瞬間、尻尾の毛が逆立った。
「んだとっ!?元はと言えばてめぇがっ……!!」
小馬鹿にするシンジさんにクサナギさんが言い返して、もはやお決まりとも言える
この2人はタイプが全然違っていて、前の時から、よくよく言い合いをしていた。
いわば、
性格も
顔を合わせれば口喧嘩を始める2人だけど、何かあった時の動きは
互いが互いの動きを把握していて、信じていてもいて、コンビネーションは完璧なんだ。
ただ、そのコンビネーションは非常時にしか
そういうところも含めて、腐女子的にはこの2人のカプもあり?ありだよね?なんて思ってしまうのは重症だろうか。
いや、そもそも両方とも私のイケメンなんだ。
そこでくっつかれたら私の立場がない。
わかってる。
でも、顔の良い男2人がわちゃわちゃしてる
私を求めて争っていた2人が、いつの間にか互いのことを想い合うようになって、その気持ちを自覚して……。
どうしよう!そうなったら私どうすればいいの!?
乙女的には2人には私を想っていてほしいけど、腐女子的には二人の幸せを引き離すなんて絶対無理!
まだ何も起こってもいないのに、妄想が大暴走して動機と息切れが止まらない。
「御神姫様?大丈夫ですか?どこかお加減でも?」
シンジさんの声すらその時の私には届いていなくて、心配かけてしまって申し訳なかったな。
「ほら!!クサナギが急に入ってきて驚かせたからお加減を崩されたんですよ!!」
「えっ!!俺のせいか!?俺のせいだよな!ごめんな、やっぱり驚いたよな?怖かったか?頭痛いか?お腹か?どこが悪い?」
心配そうに覗き込む2人に気づいた私は、先程シンジさんが声をかけてくれたことも思い出して、ハッとした。
そして慌てて2人に言葉を返す。
まさか2人が腐女子的展開になる妄想してました!なんて口が裂けても言えなかったので、少しばかり
「ごめんなさい!具合が悪いとかじゃなくて……その、えっと……ちょっと考え事してただけで……」
あとはただひたすら微笑む。笑ってなんとか誤魔化して、この場を乗り切るしかない。
そんな私にヤマトがぽそりと小声で耳打ちをする。
「御神姫。本当にどこか具合が悪いわけじゃないんですね?」
私が頷くと、ヤマトは安心したように表情を和らげて、シンジさんとクサナギさんに向き直る。
「まったく、
「はい、肝に銘じます」
そう言って面映そうに俯くシンジさん。
「面目ない……」
そう言って、バツが悪そうに髪を掻き上げるクサナギさん。
そんな2人を困ったようにみつめるヤマト。
目の前の景色、ヤマトが加わったことで、またオートでいちゃいちゃした妄想に変換してインストールしてしまいそうな思考を、私は必死で
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