第5話 正樹の月に1度の行事
「…」
不意に昔を思い出した。あの時は色々と整理出来ず、自分の感情をコントロール出来ていなかった。
事情を知った司から説得されたが、それすらあの時の俺には煩わしかった。
あの時だ。初めて司と本気の喧嘩をしたのは。
お互いボロボロになって…母さんに泣かれて、親父と話して…そして雪と関わって。
その時に思ったんだ。俺の為に身体を張った馬鹿な親友と自分も辛い筈なのに俺を本気で心配してくれた母さん。そしてまだ心の整理が着いていないのに兄と呼び俺を受け入れてくれた雪…
ああ、俺はこの3人の為に頑張ろう。そう思って立ち直る事が出来た。
だからこそ、俺はゆきの恋を全力で応援するし、お節介も焼く。
…いや、違うな。これはただの押し付けだ。司にはゆきとくっついて欲しいという俺の身勝手な願望だ。
「…」
「マサ、怖い顔してるぞ?周りがびびってる」
俺の噂ややんちゃを知っている奴は何人か居るからな。
「ん?ああ…悪いな。考え事をしていてな」
「悪い事か?」
「いや、親父の事。」
「あ、そういえば今日だっけ?会うの」
「ああ、これからな」
あれから定期的に俺は親父と会っている。完全に許した訳では無いが…母さんも納得したし、今はあの時ほど嫌っていない。
「さて、それじゃあ俺は帰るけど、司は?」
「生徒会の手伝いを頼まれてるんだ。悪いな」
そういえば朝、会長様がそんな事言っていたな。
「そうか。じゃあ明日な。」
「おう、またな」
俺と司は別れて教室を出ようとした時、ゆきがこちらに来た。
「まさ君、今日は私も一緒に行って良いかな?お父さんの所…」
「ゆきも?別に構わないけど、親父に用事か?」
「ううん、でも先月は会えなかったから、今月はって思って。」
律儀だな。
「親父なんて半年か一年に一回くらいで良いんだよ。」
「それだと、お父さんが可哀想だよ?」
そうして俺とゆきは親父に会う為にある喫茶店に向かう。
「どうせならお兄ちゃんもお弁当にすれば良いのに…一緒に作るよ?」
喫茶店に向かっている最中にゆきがそんな事を言う。
「確かにゆきの弁当は美味いけど…学食は学食の良さがあるんだ。流石にカレーやラーメンなんて弁当に出来ないだろ?」
「やろうと思えば出きるよ?」
「…え?マジ?」
「うん、マジ。最近のお弁当箱って凄いから。」
弁当箱すげぇ…
「まぁ、金欠になったら頼むよ。」
学食の安い、早い、微妙(不味くはない)な飯を食うのも悪くないし、購買で買って食うパンも悪くない。
「いつでも言ってね。2人分作るのも3人分作るのも大して変わらないから。」
ゆきはいつも母さんと自分の弁当を作っている。たまに夕飯と一緒に作る時は少し豪華になり、今日みたいに俺達が食べる用に大きい弁当を用意してくれる。
ゆきはあの出来事で母親から暴力を受けていた。そして、俺の母さんがゆきを引き取った。「この子は正樹と同じ血が流れてる。正樹の妹よ。なら例え私と血の繋がりが無くても私の子供です。」と、雪の母親に言い切った。
ゆきの事を煩わしく思っていた母親はあっさりとゆきを母さんに渡し、ゆきは俺達の家族になった。
だからなのかゆきは母さんにとても懐いている。
父親から血の繋がりが無い他人と見放されて、さつきは血の繋がりが無くても家族だと受け入れた。それがどれほど雪の心を救ったことか。
そういう訳で中学の間はゆきとも暮らしていたが、高校と入学と同時に俺は1人暮らしを始めた。
いや、流石に年頃だからね?ゆきが気にしてないって言っても、俺が気にするよ?
という訳で俺は絶賛1人暮らしを満喫?している。 司や他の友人が入り浸ってるし、頻繁にゆきや母さんが訪れてくるが。
ゆきと適当な会話をしていると目的地の喫茶店に着いた。
見た目は綺麗でお洒落なのだが…俺達はそのまま店に入る。
「あらぁ~いらっしゃ~い」
出迎えてくれたのは。ピンクのフリフリのエプロンにメイド服をはち切れんばかり筋肉でピチピチにしている、スキンヘッドの男?だ。
「今日は雪ちゃんも居るのねぇ?」
「店長さんこんにちは。」
「ども。親父は来てます?」
このオネェ系筋肉達磨メイド服がこのお洒落な喫茶店の店長なのだ。
「はい、こんにちはぁ。幸樹さんならもう来てるわよ?いつもの席よ」
この喫茶店は見た目が綺麗でお洒落なのだが…この店長のインパクトが凄すぎて一部では嫌遠されがちだが、店長の作る物はどれも美味いのだ。あの見た目なのに作るケーキは繊細で可愛いのだ。
俺達は奥の席に居る男の下に向かう。
「正樹に…雪ちゃんも元気そうだね」
「はい。お父さんも元気そうで」
俺達の父親…東城幸樹と対面した。
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