黒髪山アスレチックフィールド

 仕事が入ってしまった妹に代わり、姪と甥を連れて、黒髪山キャンプフィールドに行った時、ふと前にもここに来たことがあるような?と思って口に出すと、同行していた母が答えた。

「子供会でアスレチックに来た時のじゃない?」

「あれってここやった?」

「そうやで。今はアスレチックはほとんど撤去されたみたいやけど」

 さすがに古い記憶でしっかり覚えているわけではないけれど、当時はまだ機能していた子供会の行事で一年に一回くらい来ていた場所だった。

 バスで来ていたからよく分かっていなかったけれど、こんな場所だったのか、と改めて周囲を見渡した。

 現在はキャンプを楽しめるように整えられていて、事前申請は必要なものの青少年を含んでいれば家族単位から100人位まで利用できるそうだ。

 アスレチックフィールドだった頃は各所に木製の障害物があり、網を伝って渡ったり、ロープウェイのようなもので滑った覚えがある。

 低学年から高学年まで楽しめるように、難易度別にコースがあって面白かった。

 ただ、妹からの評価は低く、もう行きたくないと駄々をこねていたようだった。

「あの子は池に落ちたからねぇ」

 と、母に言われて思い出した。

 確かアスレチックの最後の方に池があり、確か丸太の杭が打たれていて、そこを飛び移っていくアスレチックがあった、はずだ。

 ある程度、体が成長した子供向けだったと思うが、妹は果敢に挑戦して足を滑らせ、池に落ちていた。

 もっとも、あの池に落ちる子は毎回、一人や二人は出ていたので妹が特に運動ができなかったわけではないだろう。

 ただ、いつもなら運動することを面倒くさがる妹が難易度の高いアスレチックに挑んだのが不思議で、なんでやったん?と服を着替えさせながら聞いた覚えがある。

 すると妹は男の子の名前をあげて、その子が無理矢理、引っ張っていったんだ、とべそをかきながら話した。

 途中までは必死で進んだが、どうにも飛び移れない丸太の上で往生してしまったら、笑いながら背中を押された、と言った。

 だけど、落ちた池から救出された時にはその男の子はおらず、逃げた、と悔しげに私や母に訴えた。

 母は怒ってその男の子を探したようだが、なぜか、その日参加していた子供の中にその男の子は見つけられなかった。

 母は、その男の子が妹に嘘の名前を教えたのだと考えて、更に怒りを募らせていたが、私はそんな男の子は子供会にいたかな?と不思議に思っていた。


 ことまで、つらつらと思い出した。

 聞いた男の子の名前は思い出せない。

 妹もきっと忘れているだろう。

 ちらりとキャンプフィールドの場内案内を思い出す。

 池はまだ残っているようだった。

 アスレチックがあった頃、毎回子供が池に落ちていたのは、単純に難易度が高かったから、それだけだろうか?

 もしそうではなかったら、あの男の子はまだその池で、一緒に遊んでくれる子供を待っていたりするのだろうか。

 とっくに子供でなくなった私に確認する術はないけれど。

 その池に行くか行くまいか思案しながら、私は目の前のバーベキューの支度を優先することにしたのだった。



■奈良市 旧黒髪山アスレチックフィールド

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